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執筆者の写真クレマチス

コロナリテラシー6 黒川検事長定年延長問題の背景

20200514


一昨日になって集合ポストにアベノマスクが入っていた。うっかりすると無料の試供品と間違いそうなパッケージだが、「みなさまへ」という告知文の差出人が厚労省のロゴ付きで「厚生労働省医政局経済課(マスク等物資対策班)」とあるので例のマスクとわかった。もっとも私の手元には、3月中にネット通販で50枚入りを1箱購入手続きした不織布の使い捨てマスクが、忘れたころに届いて、その後緊急事態で外出禁止となったから少しも減らない。連休に入ったころから市中に出回り始め、値崩れして山積みして売っているのも目にするようになってからのタイミングで、ありがたみは全くない。安倍政権のコロナ対応の出鱈目を象徴するような物証だ。「マスクバブルがはじけ、アベノマスクにかかった466億円も泡と散ってしまうようだ。」(「マスクバブル崩壊! 4大スポットではついに50枚入りで千円台も アベノマスク配布はたった4%」(週刊朝日オンライン5/10)。 ついでにマスク関連で、もう1つ注意事項。「浙江省と河南省、湖南省で4月中旬から下旬、マスクをして1500メートル走などに参加した中学生計3人が相次ぎ突然死した。うち2人は感染を防ぐ効果が高い医療用のN95マスクを着けていた。詳しい死因は伝えられていないが、専門家はN95マスクをして激しい運動をすると酸欠状態になる恐れがあると指摘した。」(日刊スポーツ5/10) 『サピエンス全史』の歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは、人類の感染症との闘いの歴史を踏まえて、今世界がどのような歴史過程にあるかを分析し、コロナと戦うために各個人が国家の監視を受け入れる全体主義的な監視社会を拒否し、科学を信頼し、公的機関を信頼し、マスメディアを信頼することにより、プライバシーと健康の両方を享受できると説く。2020年3月20日付のイギリス経済有力紙FINANCIAL TIMESに「新型コロナウイルス後の世界―この嵐もやがて去る。だが、今行なう選択が、長年に及ぶ変化を私たちの生活にもたらしうる(原題:the world after coronavirus ― This storm will pass. But the choices we make now could change our lives for years to come)」(Web河出、2020.04.07柴田裕之訳 http://web.kawade.co.jp/bungei/3473/)という記事を寄稿している。少し長くなるが、あらましを紹介しよう。 「今後数週間に人々や政府が下す決定は、今後何年にもわたって世の中が進む方向を定めるだろう。医療制度だけでなく、経済や政治や文化の行方をも決めることになる。…この嵐もやがて去り、人類は苦境を乗り切り、ほとんどの人が生き永らえる――だが、私たちは今とは違う世界に身を置くことになるだろう。…非常事態は、歴史のプロセスを早送りする。…未熟なテクノロジーや危険なテクノロジーまでもが実用化される。…この危機に臨んで、私たちは2つのとりわけ重要な選択を迫られている。第1の選択は、全体主義的監視か、それとも国民の権利拡大か、というもの。第2の選択は、ナショナリズムに基づく孤立か、それともグローバルな団結か、というものだ。 …感染症の流行を食い止めるためには、各国の全国民が特定の指針に従わなくてはならない。これを達成する主な方法は2つある。1つは、政府が国民を監視し、規則に違反する者を罰するという方法だ。今日、人類の歴史上初めて、テクノロジーを使ってあらゆる人を常時監視することが可能になった。…今や各国政府は、生身のスパイの代わりに、至る所に設置されたセンサーと、高性能のアルゴリズムに頼ることができる。…それが最も顕著なのが中国だ。中国の当局は、国民のスマートフォンを厳重にモニタリングしたり、何億台もの顔認識カメラを使ったり、国民に体温や健康状態の確認と報告を義務づけたりすることで、新型コロナウイルス感染症の病原体保有者であると疑われる人を素早く突き止められるだけでなく、彼らの動きを継続的に把握して、接触した人を全員特定することもできる。国民は、感染者に接近すると、多種多様なモバイルアプリに警告してもらえる。」 その後の世界の進行はハラリの予測をほぼ裏付けている。中国は厳重な国民監視のもと、いち早くコロナを終息させ、2か月遅れの全人代を実施する目途をつけている。 ハラリの思考実験は皮下の監視にまで及ぶ。「体温と心拍数を1日24時間休みなくモニタリングするリストバンド型センサーの着用を、ある政府が全国民に強要したとする。得られたデータは蓄積され、政府のアルゴリズムが解析する。そのアルゴリズムは、あなたが病気であることを、本人が気づきさえしないうちに知るだろうし、あなたがどこに行き、誰と会ったかも把握している。そのおかげで、感染の連鎖を劇的に縮め、完全に断ち切ることさえできるだろう。そのようなシステムがあれば、ほんの数日で感染症の拡大を止められることはほぼ間違いない。…だが、そこには負の面もある。当然ながら、ぞっとするような新しい監視体制に正当性を与えてしまうからだ。」 人はプライバシーと健康のどちらを選ぶかと言われたなら、たいてい健康を選ぶが、これは「選択の設定を誤っているからだ。私たちは、プライバシーと健康の両方を享受できるし、また、享受できてしかるべきなのだ。全体主義的な監視政治体制を打ち立てなくても、国民の権利を拡大することによって自らの健康を守り、新型コロナウイルス感染症の流行に終止符を打つ道を選択できる。」そこで重要なことは、「追跡用アプリケーションをある程度使ってはいるものの、広範な検査や、偽りのない報告、十分に情報を提供されている一般大衆の意欲的な協力」だ。 「国民は、科学的な事実を伝えられているとき、そして、公的機関がそうした事実を伝えてくれていると信頼しているとき、ビッグ・ブラザー(訳注 ジョージ・オーウェルの『一九八四年』で、全体主義国家オセアニアを統治する独裁者)に見張られていなくてもなお、正しい行動を取ることができる。自発的で情報に通じている国民は、厳しい規制を受けている無知な国民よりも、たいてい格段に強力で効果的だ。 …石鹸で手を洗うことは、私たちにとっては当たり前だが、その重要性を科学者がようやく認識したのは、19世紀に入ってからだった。それ以前は、医師や看護師さえもが、手術を1つ終えた後、手を洗わずに次の手術に臨んでいた。今日、何十億もの人が日々手を洗うが、それは、手洗いの怠慢を取り締まる「石鹸警察」を恐れているからではなく、…ウイルスや細菌について耳にしたことがあり、これらの微小な生物が病気を引き起こすことを理解しており、石鹸を使えば取り除けることを知っているからだ。  …人々は科学を信頼し、公的機関を信頼し、マスメディアを信頼する必要がある。」 「私たちが直面する第2の重要な選択は、ナショナリズムに基づく孤立と、グローバルな団結との間のものだ。感染症の大流行自体も、そこから生じる経済危機も、ともにグローバルな問題だ。そしてそれは、グローバルな協力によってしか、効果的に解決しえない。…  各国は隠し立てせず、進んで情報を提供し、謙虚に助言を求めるべきであり、提供されたデータや見識を信頼できてしかるべきだ。また、医療用品・機器の生産と流通のための、グローバルな取り組みも欠かせない。とくに重要なのが検査キットと人工呼吸器だ。各国がすべて自国内で調達しようとし、手に入るかぎりのものをため込む代わりに、協調してグローバルな取り組みをすれば、生産が著しく加速され、命を救う用品や機器がより公平に分配できる。戦時中に国家が基幹産業を国有化するのとちょうど同じように、新型コロナウイルスに対する人類の戦争では、不可欠の生産ラインを「人道化」する必要があるだろう。…あいにく、現時点ではどの国もこうしたことを1つも実行していない。国際コミュニティは集団麻痺に陥っている。大人の振る舞いを見せる国が見当たらないようだ。… 2008年の金融危機や2014年のエボラ出血熱の大流行といった、これまでのグローバルな危機では、アメリカがグローバルなリーダーの役割を担った。だが、現在のアメリカの政権は、リーダーの仕事を放棄した。…この政権は、最も親密な盟友たちさえも見捨てた。EU(欧州連合)からの入国を完全に禁止したときには、EUに事前通告さえしなかった。…そして、伝えられるところによれば、新しいCOVID-19ワクチンの専売権を買い取るために、あるドイツの製薬会社に10億ドルという金額を提示したとのことで、ドイツを呆れ返らせた。現政権が最終的には方針を転換し、グローバルな行動計画を打ち出したとしても、その指導者に従う人は皆無に近いだろう。なにしろその人物は、責任はけっして取らず、誤りは断じて認めず、いつもきまって手柄は独り占めし、失敗の責めはすべて他人に負わせるのだから。  アメリカが残した空白を埋める国が出てこなければ、今回の感染症の大流行に歯止めをかけるのがなおさら難しくなるばかりか、その負の遺産が、今後長い年月にわたって国際関係を毒し続けるだろう。…人類は選択を迫られている。私たちは不和の道を進むのか、それとも、グローバルな団結の道を選ぶのか? もし不和を選んだら、今回の危機が長引くばかりでなく、将来おそらく、さらに深刻な大惨事を繰り返し招くことになるだろう。逆に、もしグローバルな団結を選べば、それは新型コロナウイルスに対する勝利となるだけではなく、21世紀に人類を襲いかねない、未来のあらゆる感染症流行や危機に対する勝利にもなることだろう。」 残念ながら、トランプ政権は支持率低下にもかかわらず、ハラリの懸念した路線を修正することなく、米中の対立を激化させ、グローバルな団結からは遠ざかるばかりだ。武漢のコロナ流出についての中国政府の責任追及で覇権争いを有利にし、大統領選挙で支持を集めようという動機があからさまだ。これについては改めてふれよう。 顧みてわが日本は政治がまだ霧の中だ。しびれを切らした国民の不満を抑えるため、今日は、緊急事態を39県で前倒し解除することを発表している。解除の基準を求められていたが、早くからデータの蓄積に努め、目標値を明示して出口戦略を打ち出した大阪府のように有権者の支持を集められていない。感染者数は減少しているが、PCR検査の数は2桁少なく、分母が小さくて各種の指標はどこまで実態を反映したものか定かではない。説明する首相の目は相変わらず虚ろだ。心ここにあらずで、非常時のトップリーダーらしい存在感は希薄だ。 唾液によるPCR検査の実用化や、抗体検査、抗原検査が可能になるのは朗報だが、依然として感染者数の実態把握は、加速化されていない。徐々に退院者数も増えているが、20代の現役力士がPCR検査を受けるまで1週間近く放置されて犠牲者となったニュースは他人ごとではない。コロナというだけで接触が厳しく禁止され、臨床現場で日々どのような治療が行われているか、実態がなかなか伝えられない。 アビガンについてはこれまでたびたび言及したが、フリーランスのニュースアナウンサー赤江珠緒がアビガンにより生還した経緯をTBSラジオ5月12日放送の「荻上チキ・Session-22」宛のメッセージという形で公開している。https://www.tbsradio.jp/482224。公開を意図して担当医の校閲を仰ぎ、「たまむすび」という自分の番組でなく、「普段から新型コロナについて深く議論している」Session-22を公開の場に選んだというだけあって、「病院が様々に枠づけられ複雑化し、医療従事者同士が、治療法を話し合うという状況も生まれ辛く、コロナの治療に関しては、学会に報告をあげるなどはされているものの、実際には先生方の個々の人脈の中で、情報をやり取りして対処している」という現状、「病院によってお互いにどういう治療をしているのか、どこに行けばどんな治療ができるのかなどは、公には明らかになっておらず、いまだコロナに対する日本の医療体制は、全国的にかなりムラがあ」るという実態を、自身の生々しい治療体験とともに正確に報告している。 安倍政権がコロナ対応を誤った遠因は、昨年来の消費増税強行、森友問題、河井案里参議院議員選挙違反事件、桜を見る会問題など一連の政治問題を習近平訪日やオリ・パラ招致で覆い隠すことに腐心して、正面から向き合って来なかったことにあるだろう。なかでも、最も悪質な案件が、政権寄りと目される黒川弘務検事長の定年延長を閣議決定でゴリ押しし、コロナのどさくさに紛れてその総仕上げとしての検察庁法改正案を強引に通過させようとするものだ。1市民の5月8日夜に初めて投稿されたハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」を含むツイートは、著名人も次々と投稿して5月11日時点で500万件を突破した。 異論もあるが、黒川検事長定年延長問題が三権分立を揺るがせ、民主主義の根本にかかわる重大事であることに変わりはない。権力を監視する国民の民度が問われている。 この点については、すでにNHK NEWSWEBの「揺らぐ“検察への信頼”~検事長定年延長が問うもの~WEB特集」(3月25日)が腰の据わった取材をしている。 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200325/k10012349971000.html?utm_int=detail_contents_news-link_001 冒頭「「筋が通った説明ができないなら検察は死んだも同然だ」「人事による事実上の“指揮権発動”だ」 これは東京高等検察庁の検事長の定年延長をめぐる現職の検察幹部のことばです。NHKは歴代検事総長などの検察OBや現職の幹部たちに徹底取材。危惧していたのは「検察の独立性」に対する信頼です。 (社会部司法クラブ記者 森龍太郎・橋本佳名美・守屋裕樹・宮崎良太)」と取材チームの署名入りで、この暴挙の全体像を明らかにしている。



全文引用したいところだが、ここでは、森友事件をスクープして2018年にNHKを退職した相澤冬樹の「“不要不急”の検察庁法改正が、安倍官邸と黒川氏には“必要至急”のワケ」https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200511-00218851-hbolz-soci&p=5 から引用しよう。以下を読めば、すべて繋がる話であることがわかる。 「話は今年1月にさかのぼる。黒川弘務・東京高検検事長の定年延長(正式には勤務延長)が閣議決定で決まった。…黒川氏は2月7日に定年を迎え退職するところだったが、これを半年延ばして8月にした。今の稲田伸夫・検事総長が慣例通り就任2年で勇退すれば7月にポストが空き、その後釜に据えられる。 この定年延長は“官邸の守護神”の異名を取る黒川氏を検察トップの検事総長にするための奇策と見られ、それまでの法律解釈をいきなり変更する“超法規的措置”だったことから世の批判を招いた。検察幹部にとっても“寝耳に水”の話で、黒川氏の定年を前に予定されていた送別会が急きょキャンセルになった… 黒川氏の定年延長を聞いて、稲田検事総長がこんな一言を漏らしていたのだ。 「あっちがそうくるなら、こっちも考えがある」 「あっち」はもちろん安倍官邸。「こっち」は稲田総長をトップとする検察組織。「安倍官邸vs.検察」の闘いが火ぶたを切った。…では「こっち」の考えとは何か?  それはもちろん、広島地検が着手した河井克行前法務大臣(衆院広島3区)の妻、河井案里参議院議員の選挙違反事件だ。夫妻の秘書が逮捕・起訴されているが、実はこの事件、広島地検だけで捜査しているわけではない。  逮捕した秘書の取り調べにあたったのは、大阪地検特捜部から応援に派遣された実力派特捜検事だ。そしてその内容は逐次すべて東京にも報告されていた。完全に東京マターなのだ。…」 「「安倍官邸は黒川さんの定年延長で“虎の尾を踏んだ”んだよ。稲田総長は当初は就任2年で7月に辞めて、その後に林さん(林真琴 名古屋高検検事長)が就任という流れを考えていた。林さんは7月末で定年を迎えるけど、検事総長になれば定年が2年延びるからね。  でも、その構想を覆されて稲田さんもブチ切れたんだよ。総長が2年で辞めるというのは慣例であって、稲田さんは65歳の定年まであと1年ある。本人が『辞める』と言わなければ定年まで辞めさせる手立てはない。  黒川さんは半年延長しても8月には退職だから、稲田さんが辞めなかったら結局総長にはなれないからね。さすがに2度の定年延長はできないでしょ? 稲田さんはそれを考えているよ」… 定年の65歳への引き上げは、ほかの国家公務員についても提案されている。実は、去年秋に政府部内で検察庁法改正が検討された時は、この65歳への引き上げだけが入っていた。それだけならさして反対もなかっただろう。だが問題は「役職の延長」だ。これは内閣の判断で決まる。ということは、内閣に都合のよい人物を検察幹部として残すことができるということだ。  例えば黒川氏は退職が8月まで延びたが、違法な延長だと厳しく批判されている。だがこの法案が通れば、あの定年延長も「超法規的措置」ではなく合法的だったと後付けで正当化できる。そうすれば再度の定年延長も不可能ではなくなり、稲田検事総長が辞めた暁には、めでたく検事総長に就任できるようになる。  コロナ対策で「不要不急の外出は控えましょう」と政府をあげて呼びかけているさなかに「三密」状態の国会を開き、「不要不急」としか思えない検察庁法の改正を急ぐのは、まさにこれが安倍官邸と黒川氏にとっては「必要至急」な法案だからだ。… ところで、その黒川氏が東京高検検事長になる前、法務省の事務次官をしていた時の重要事件が森友事件である。国有地の不当な値引きによる背任罪。関連する公文書を破棄・改ざんした公用文書毀棄(きき)、公文書変造罪。告発を受けて大阪地検特捜部が捜査していた。  当時、私はNHK大阪報道部で検察取材を担当していた。この事件について、ギリギリまで大阪地検にはやる気があると感じていた。ところが一転して、結果は全員不起訴。その時、東京から大阪に大きな圧力があったという。その圧力をかけたのが黒川事務次官だとささやかれていた。黒川氏が“官邸の守護神”と言われるゆえんだ。  この事件で命を絶った赤木俊夫さんの妻、赤木雅子さんが望んでいる「真相解明のための再調査」。もしも検察が財務省の関係者を起訴していれば、法廷ですべてが明らかになったはずだ。黒川氏は赤木さんの願いをも握り潰したことになるのである。」

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1 Comment


繁 大村
繁 大村
May 14, 2020

コロナリテラシーを追求することが政権監視にもつながっていますね。あぶり出しは国民の政治リテラシーを高めることになる。簡潔にまとめていただいてありがとうございました。おかげ様で目が覚めました☺

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