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執筆者の写真クレマチス

Correspondence(2021/8/18-9/11)または欧州バカンスと移民、コロナ、隈研吾展の話題あれこれ


 メールの配列を発信順としています。


欧州(の一分)の報告書

2021/8/18, Wed 20:28

Cさま

ここしばらくのドイツとその周辺国の最近の状況を報告しようと書き始めたら、ブログ以上に長くなってしまったので、添付にしてお送りしています。

B


Cさま


東京の今年の夏は雨が多いと友人から聞きましたが、こちらは 4 月以来ずっと雨模様だったのが、私たちが漸く休暇をとって出かけた先々週末から天気が良くなり、とくにスイスでは連日、帰途につく前日の 15 日までからりと晴れわたった皇帝日和(日本でいう日本晴れ)でした。昼間は 32,3 度ということも多く、まだ日が長いのでホテルやカフェでは屋外で飲食する人の姿が目立ちました。

月曜日 16 日は雨でしたがホテルを出発したのは午前中でしたので、雨からの脱出という感じでドイツに戻りました。ドイツに入ると青空が見え、温度は 20 度とすこし低め。


今回最初に訪れたのはオーストリアの西端、ボーデン湖に面した町ブレゲンツから少し山を上ったビルトシュタインという村で、ここの教会でもう15 年ほど付き合いのあるウィーン・シンフォニカの人達が例年の如く(昨年はさすがに無理でしたが)日曜日に開催するバロックコンサートを聴きに出かけました。

ブレゲンツでは毎年、湖上に設けた舞台でオペラが上演され大変な人気なのですが、それだけに切符も取りにくく、いくら夏でも夜に湖畔の階段状の席からの観劇というのは寒さに弱い私は怖くて避けています(膀胱炎になる)。今年の演目は「リゴレット」、数年前は「こうもり」でした。昼間教会でバロック音楽を演奏した人達の何人かは、これからリゴレットで弾くからと私たちとの食事には参加しませんでした。

オーストリアに関してちょっとしたニュースは、34 歳の若き首相セバスチアン・クルツが間もなくお父さんになることでしょうか。結婚はしていませんが、これは全く普通です。

コンサートの翌日は毎年の休暇地アッペンツェルに行き、今回は私の意向でこの地域(内アッペンツェルと外アッペンツェル)の村や町を訪ね、通りや横丁・路地を歩いて人々の暮らしの一端を見て廻りました。


ところでなぜアッペンツェルに内(AI)準州と外(AR)準州があるかというと、これは宗派の違いによるもので、16 世紀初めの宗教改革以降の数十年はカトリックとプロテスタントがなんとか共存していたのですが、1597 年にカトリック側の反宗教革命の動きを受けて流血の争いにまで至った挙句二つに分かれ、それから今日まで 400 年余りそのままという、信じられないような経緯があります。

酪農業と観光で暮らすAIと、近代的な製造業や手工業が盛んなARとは、別れていればこそ穏やかに暮らせる、という見本のようなものです。もちろんAIにも手工業はありますし、ARでも酪農家が高級チーズを生産していて、経済面での協力も活発です。


というわけで今回はオーストリア西部とスイス東北部の話になりますが(ホテルから 30 分ほどで簡単に国境を越えられる)、スイスが欧州でちょっと特異な立場にあることを反映して、例えばヒジャブやニカブなど頭髪のみでなく顔の一部まで隠す女性の衣装が禁止されているこの国ではイスラム教徒の数は少なく、ところがそこから数十キロのオーストリアの町に入ると、広場や公園には体をすっぽり覆ったアラブ系女性たちがたむろしていました。

その代わり、と言っては何ですが、7 月半ばから 8 月上旬まではスイスのいくつかの町村、それも山の麓または山腹の村に正統派のユダヤ人グループが殺到し、これがちょっと問題になっています。


私も 4 年前にダボス(トーマス・マンの「魔の山」の舞台)とその周辺に行ったとき、奇妙なユダヤ人の集団を見て驚愕し恐怖にすら捉われましたが、好奇心からレポーター並みに駅のキオスクの中年女性やカフェのウェイトレスたちから話を聞いてその全貌が分かったのでした。

この人達はアメリカ(特にニューヨーク)やベルギーのアントワープ、アフリカ、イスラエルなど世界の各地から集まり、ユダヤ人世界の情報交換も重要ですが最大の目的は娘・息子の配偶者を探すことです。それも 15 年-20 年先まで考えて。身近なところで間に合わせてばかりいると近親結婚になり遺伝上好ましくないからで、この点は何が何でも民族の存続を優先させるユダヤ人ならではの解決策です。ちなみにみんな家族でやってきますが、子供の数が極めて多く乳母車が通りを塞いでいる光景も珍しくありません。

彼らからすると公共の秩序が保たれイスラム教徒の脅威に晒されないスイスは大変魅力があるのですが、ユダヤ人の中でもかなり極端な正統派の人々とあって(妙な帽子をかぶり髭をはやし、真夏でも黒いフロックコートを着ている)、現地の人と交わることはほぼゼロ、食事制限が厳格なのでカフェにもレストランにも出入りせず、挨拶すらしない。(スイス人は通りすがりに赤の他人にでもグリュエッチ、こんにちは、と声をかけるのが常識です。)カフェに入って来たと思ったら、手洗いだけ使って出ていく。


これらの地方はいずれも冬季のリゾートとして有名なので夏は空いている安ホテルもあり、またスキー客などのための駐車場がほとんど使われてないことを利用して、その地下でユダヤ式食料品を販売したり、祈祷の場所を設けたり、彼らなりの工夫をこらしています。

一応きちんとした人たちのように見えますが、ゴミの処理や清掃などはその点に関し世界一厳しいスイス人に言わせるとまったく不合格で、近年スイス在住ユダヤ人の協会がこれら大勢のインバウンド・ユダヤ人と各地域の住民代表との間に立って両者の相互理解を図っています。目下は何とか落ち着いているものの、ユダヤ人お断りを主張する自治体もあり、来年もスイスに来られるという保証はないと、ある町のユダヤ人「幹事」が悲し気に新聞記者に語っていました。

昨年はコロナ騒ぎでユダヤ人の集まりはありませんでしたが(陸路も空路もほぼ閉鎖状態でしたので)、今年またわんさと押し寄せてきたところを見ると、ユダヤ人間での感染は少なくまた彼らは異邦人(非ユダヤ人のこと)とはほとんど接触しないので、疫病を広める懸念はないようです。


イスラエルは接種が最も早く、接種率も世界一であることは知られている通りですが、上記の通り民族の存続を最優先するユダヤ人たちは遠い昔から、彼らが閉じ込められていた欧州各地のゲットー内で、欧州の他の住民よりはずっと衛生的な暮らしをしていました。

さらに普段外部の人と接触がないこともあってペストにかかるユダヤ人は非常に少なかったことが、ペストの流行はユダヤ人の陰謀によるという説を巷に広げる要因となり、多くのユダヤ人が集団殺戮にあったと言います。そんな歴史から、安全な場所を嗅ぎ当てる彼らの嗅覚は抜群です。

ワクチン接種率はスイス、オーストリア、ドイツでは似たようなもので( 7 割ほど)、これらドイツ語圏でも拒否者や反抗者はいるものの、フランスのようにあちこちの町で数万人規模のデモ、というより暴動、が繰り広げられることはありません。


ただ、ドイツ政府などはかなり狡くて、フランスでは接種を義務付け未接種の人には法的に不利・不便な制限を設けているのに対し、ドイツは「義務ではない、自由意思を尊重する」などといいながら、未接種の人が利用できない公共設備があったり店の出入りを拒まれたりで実態はフランスと変わらず、周りの眼はフランスよりドイツの方が厳しいくらいです。(だからこそ、あえて公式に義務化せずとも、というのが政府の狙いかもしれません。日本に似ているとも言えますね。)

これは一種偽善に見え、それならいっそちゃんと「義務です」と断言すればいいのに、と私などは腹を立てていますが、それに怒るドイツ人・スイス人・オーストリア人が少ないのは、彼らの方が「聞き分けがいい」からでしょう。そういう国民性がナチにつながったのだ、などという極左知識人もいます。極端な理論みたいだけれど、完全に否定はできない。

昔読んだアーノルド・トインビーの Study of History の中で(読んだのはもちろんほんの一部)、第三帝国時代のドイツ人の罪は criminal obedience(犯罪的な従順さ)にあると書かれていたのを思い出します。

目下のドイツ、オーストリア、スイスでは基本的に、カフェはテラスに座るなら接種証明書を見せなくてもよい、マスクも不要、レストランは店主の判断任せ、ただビュッフェなどは絶対にマスクをすること、という合意があります。またお店も土産物店などはいいけれど、食料品店と薬局だけは接種済・非接種に関わらずマスク必須で人と人との距離にも神経をとがらせています。


今回宿泊したホテルでも、朝食時のビュッフェ以外はマスク不要で、ホテル側が席の間にアクリル板を設けたり、1 人分の距離を置いて座るような措置を取ったりしていました。

また、シュバルツバルトを含めこれらの地域はいずれも観光客で大いに賑わっていますがやってくるのは地元か近隣の州の人が多く、近場で済ませているのは、いくら「バカンス命」の欧州人といえども危険地域に指定されている南仏やスペインに行くと帰国後に数日から数週間隔離されるのと、何より今はトルコ、ギリシア、イタリアというドイツ人のお気に入りの休暇地が山火事で緊急事態になっているためです。

地元を見直すのは結構なことで、実際見渡してみれば自宅から 1 時間以内でも風光明媚の地はたくさんあります。ただスイスの場合の難は物価でも何でもドイツの 3~4 割高いこと。典型的なのがガソリン/ディーゼルで、私たちもスイスからオーストリアの町に行ったついでに満タンにしてきました。


しかしスイスと一口に言っても、またドイツ語圏に限っても、自治体ごとにコロナ状況には差があって、ドイツからアッペンツェルに向かう途上のウィンターテュア(ヴィンタートゥール)では感染者が例外的に多いというのですが、これはこの町では工業が盛んでそのため移民系の人が多く雇われているのと、特にアルバニア人の占める割合が大きいためだそうです。

アルバニア人・コソボ人・ボスニア人などは最近のサッカー欧州選手権で活躍し、おかげでスイスは 70 年ぶりに 8 強にまでなったのですが、バルカン系は一般に法律を守らず衛生面にも注意を払いません。バルカン難民を 90 年代に最も多く受け入れたのは、EUから保守的と非難されてきたスイスでしたが、彼らの同化には数世代を要するでしょう。

チトーのユーゴスラビアでは多民族・多宗教を無視して共産主義という共通項で無理やり結び付けていたのが、ご存じのようにソ連の崩壊後はユーゴを構成していた共和国は全部バラバラになってしまいました。戦火と貧困を逃れて外国に出た移民の間では出身地を異にする人々の争いが絶えず、ということは宗教と「血」を同じくする人達が集まって騒ぐ傾向が強いので、疫病の感染も早いのです。一番いいのは彼らに早く接種してもらうことですが、ドイツ人と違って従順ではないので地方政府もてこずっています。


長めのドイツの休暇も今週いっぱいとなり、また休暇中といっても夫の会社では修理・メンテナンスで何人かの作業員が来ていますし、事務所にも誰かしらいて仕事の来客もあるので、私の本格的な休暇はこの月曜日で終わりました。普段でも毎日が休日みたいなものですが、出かけていると食事の支度がないのが助かります。

でも日本で働いていた頃は 10 日間の休暇なんて夢に見たこともなかったので、多くを望まぬ日本人としては何の文句もありません。

それでは今回はこれにて。


B

古いマンション(?)の前でギターを弾く女性



AW: ブログ

2021/8/23, Mon 00:39

Cさま

先日お送りしたレポートが掲載されるかどうか、いつになるのかは分かりませんが、それは別として、南アフリカのブログの続きをお送りします。例によってタイミングはお任せです。

こちらはアフガニスタンでのNATO敗北が主要なニュースになっており、ドイツでは外務大臣が袋叩きですが、この人わりと平然としています。ドイツ政府の責任というならメルケルが責任を取るべき、しかし国政選挙まで一か月という今の時期に誰が辞職しても無意味です。ただ、カブールで大勢の欧米人と彼らに雇われていた現地人に加え、タリバンを恐れる一般人が空港に殺到して死人まで出た中で、メルケルが映画(ドキュメンタリーだったとか)を観に行っていたというのは、さすがに。これで引退するから怖いもの無し、というのではあんまりですね。

いずれこの件についても触れたいのですが、今は欧州とアメリカで騒がれているもう一つの問題、奴隷貿易と植民地の処理に関する記事を多く読んでいるところです。

それではよろしく。

B



Re: 欧州(の一分)の報告書

2021/8/23, Mon 03:35


B様


ちょっと体調不良で返信遅くなりました。肩凝りがひどくなって視力が低下、奥の入れ歯が外れて歯医者通いと猛暑復活が重なってすっかり変調をきたしました。やむなく外出する以外は室内にこもってほぼ寝たきり老人の状態でした。


今回は、スイスからオーストリアにかけての中央ヨーロッパの夏の休暇の様子や新型コロナに対する地域や民族の違いによって異なるきめ細かい対応の実態について、興味深いレポートをありがとうございました。


貴地での休暇期間、好天に恵まれたということですが、全世界的に異常気象のニュースが聞かれる中で、8月になって日本でもようやく晴の日がつづくようになりました。ちょうどヨーロッパ中央部と日本の天候のリズムが偏西風の蛇行の波形が重なってシンクロしているようです。

もっとも昨年と同様、南の太平洋高気圧と北に張り出したオホーツク高気圧に挟まれた日本列島は気圧の谷間に固定されて、梅雨末期の線状降水帯が発生しやすい気圧配置になってしまい、九州から北陸にかけて各地で集中豪雨に脅かされています。関東でも上空に冷たい大気の層があるため突然の驟雨や雹が降るなど不安定な気候が続いています。私も先週バイクで走行中突然黒雲に覆われ猛烈なにわか雨でずぶぬれになりました。


さて、バロックコンサートのレポートに続くアッペンツェルの歴史と現地報告は複雑なユダヤ人社会のデリケートな生態を現地取材をまじえて興味深く解き明かした貴重なフィールドワークになっていると思いました。スイスには正統派のユダヤ人がいて、現地の人と交わらなかったり、在のユダヤ人とインバウンド・ユダヤ人がいること、衛生的な生活習慣からペストの流行時にユダヤ人陰謀説が生まれたことなどなるほどと腑に落ちました。

アッペンツェルなど何度か目にした地名ですが、グーグルマップで位置を確かめながら拝見するとブルーガイドのような旅行案内としても面白く読めました。


ワクチン接種についての各国事情はいま最もホットな話題ですが、ドイツ、オーストリア、スイスでは「非常事態宣言」下や「まん延防止等重点措置」(昨年の第一回非常事態宣言以来、東京は何にもつかない日は数えるほどしかなかった)の日本よりも緩やかな印象ですが、地域ごとに差があるのは同じようですね。法律で罰則を設けないとマナーを守らないフランスとの対比も単純でないのが面白い。


オリンピックを強行した日本では案の定、感染爆発で右肩上がりの感染者数の棒グラフが止まらなくなり、医療崩壊は明らかとなりました。コロナ感染で自宅療養中の30歳代の妊婦が「中等症相当」で2日間入院先を探したが受け入れ先が見つからず、自宅で早産し、新生児が死亡しました。入院すべきなのに受け入れ医療機関が見つからない自宅療養と入院等調整中のコロナ患者は合わせて4万人に迫る勢いです。自宅療養とは極端な話、医療に見放されて一人でコロナと戦えということです。毎月目の飛び出るような保険料を納めさせておいていざとなったら、自己責任で、では国家的詐欺と言いたくなるような状況です。

オリンピックを成功させ、解散総選挙というS首相の目論見は外れて内閣支持率は下降線の一途、今日行われた横浜市長選では自公推薦の小此木八郎氏が公衆衛生学の専門家で元横浜市立大教授の山中竹春氏に完敗、政局も風雲急を告げてきそうです。


それでも死亡者数は欧米に比べて1桁少ないのは、マスク着用などの日本人の生活習慣と高齢者からワクチン接種が進んできて新規感染者の中心が 40, 50 代や 20, 30 代に移行してきていること、コロナの診断や治療方法、適用薬の知見が蓄積されてきたことがあるようです。現在のコロナの変異株はほとんどデルタ株に置き換わっていると思われますが、感染力が強く、子供でも感染してウィルスを移すことがあるので、発症してなくても家族感染が止められない状態です。政府は相変わらず人流抑制とワクチン接種がメインの方策ですが、最近は抗体カクテル療法を推進すると言い出しました。確かに有効な治療法ですが、点滴薬で重症化する前に投与する必要があり、適切な検査と診断に基づかないと効果がだせないようです。

この辺の事情は例によって児玉龍彦先生の動画で詳しく説明されています。


「感染爆発!大事なのは診断と治療」【児玉龍彦×金子勝 新型コロナと闘う】20210807

…今回は、感染拡大の上昇局面でとるべき「重症化を防ぎいのちを守る」対策について、最新の知見をお送りします。…政府の対策に根本的に欠けているのは、コロナは病気で患者には命を守る治療が必要だという視点です。この1年半でコロナの解明も治療法も飛躍的に進みました。感染症医にだけ任せる政策を転換し、広く医療関係者、研究者に対策への参加を求めることでその成果を生かして対応すれば、上昇局面に耐え、次の下降局面での対策につなげることができます。…

収録は、2021年8月7日


目が痛くなったのでとりあえず、送信します。

明日調子がよかったら、ホームページにアップします。

スイスとオーストリアのグーグルマップ作成しましたので添付します。


C



AW: 欧州(の一分)の報告書

2021/8/23, Mon 06:03

Cさま


メールありがとうございました。拝読して、あ、やっぱり、と思い、大変な中で連絡を下さったこと、ブログの件で負担をおかけしたことを申し訳なく思いました。

やっぱり、というのは、レポートが掲載されないことより、フォーラムでいちまるさん、ろれちゃんの寄稿にこのところ全くコメントしていらっしゃらないからで、これはとてもお忙しいか、体調がすぐれないせいに違いないと思っていました。

真夏の東京は何もせずとも体に不調をきたすのに、いろいろと多方面で活躍しておられ、責任感の強さが体に一層の負担をかけてしまうのでしょう。

私も 70 歳過ぎてやっと偏頭痛の発作が亡くなりましたが(普通は血管の収縮力の関係で 60 歳までに納まるのに、ずいぶん遅くまで悩まされました)、発作が収まって屋外に出るとふらついて目の前に黄色い点が現れたり、その都度確実に視力が衰えていると感じたものです。

いちまるさんも*****症とかで目の問題があるのにたくさんの本を読んでおられて、いつも感心しつつ、大事をとってときには目も体もしっかり休めない、と密かに心配しています。


日本の感染状況は私の帰国プランにも影響を及ぼし、ミュンヘンの領事館などからの通知にはもうえらく面倒なことがかかれており、それもすぐに変わるので、これでは無理だと思うようになりました。空港から公共の乗り物を使っては行けない、というのも腹立たしい限りです。義弟が迎えに来るといいますが、その一か月あとで夫も来たいと言い、その時期には義弟も私も高知にいる予定になっており、といって面倒な入国手続きを独りでさせるのは可愛そうなので二人とも帰国を取りやめました。私一人でならなんとかなるけれど、夫の場合また日本の規則が変わって 2 週間の隔離などということになったら、3 週間予定の帰国の大部分を隔離常態で過ごすことになります。そうでなくてもこの種のことには実に不器用な人で、といって「あなたは来ないで」とも言えませんので、今年は諦めようということになりました。

東京の感染者が 5000 人を超えたときは恐怖にかられましたが、都内に住む甥が言うには、横浜や周辺の県から通勤した人が検査を受けるのが東京で、感染者は東京の方にカウントされるから数字が上がるのだと言っています。彼は港区に住んでおり、ここはサラリーマンは多いですが住民は少なく、それにしては感染者が多すぎると調べたら、そういうことだったそうです。小さな子供が二人いますが、週末はよく出かけ、同じマンションの子供たちも一緒のことが多いので、大丈夫かしらと気になっています。


子供といえば、感染した妊婦の話はもう何といっていいか。妊娠したら隔離して、といっても無理ですし、それで感染したら出産時のことも子供の健康も考えなければならず、本人はどんなにか不安、というより悲惨な思いだろうと同情せずにはいられません。死産のケースもありましたね。その点で言うと、例えば私の田舎の家などはかなりのスペースがあって 3 人ほどが暮らしても互いに接触することがないので、そこに隔離させてあげたいとも思いました。田舎ですが、意外と保健婦さんや看護師さん、医療関係者は多いのです。高齢者が多いせいでしょう。仲良しの友達のお嫁さんも保健婦で、何かあったら言って下さいね、などと声をかけてくれたりして、都会よりも安心です。しかしそれにしても高知を含め四国四県感染者が急増していますね。一つはお盆の帰省者があったからでしょう。そこへまた、パラリンピックをやるそうで、もうこうなったら何が何でもやらずにおくものか、という妄執のようなものを感じます。今日論語の一部を読んでいると、学べば頭が柔らかくなるというようなことを書いてあったので、この頑迷さも学びの足りない輩が増えたせいだ、などと 1 人で怒っていました。


そうそう、スイスからオ―ストリアの地図をありがとうございました。レポートで言及した場所をマークして下さっていて距離関係が一目で分かりました。ダボスの左上にクールという地がありますが、ここはスイスで最古の町で、夫も私も気に入っており知り合いになった人達もいるのでよくでかけます。その近くの町から日本人にも人気がある氷河急行が出たりしていますが、今はさずがに運休です。しかしクール、ダボスを含むこのグラウビュンデン州は何といっても日本人にはハイジの故郷として有名で、ハイジの村マイエンフィルドはワインの産地でもあります。クールで親しくなった1人は洋品店の店主で、そこで皮のジャケットを買わされ(店主でなく夫に。付き合いのためです)、それの袖が長すぎたので調性してもらい 10 月にまた行って受け取ることになっています。ということで、10 月の終わりか11 月にはこの町のことなどお話できたらと思っています。


欧州各国の様子を見ていると、いつまでも籠っているわけにはいかないから、こうなったらもうウィズコロナで暮らそうと考えているようです。果たしてそれでいいのかどうか。私としてはワクチン接種も済ませたしマスクをして不要な外出を控えるということ以外に手がありません。周囲に 3 度目の接種を考えている人も多くいますが、その場合は抗体ができているかどうかをまずチェックする必要があるでしょう。でもそれがデルタ変種にも効果のある抗体かどうか、分かるのかしら。

という具合に暮らしています。本当にお体にはお気をつけて。冬眠ならぬ夏眠で、秋口までせいぜいだらだらとお暮しになった方がいいですよ。


B



AW: ブログ

2021/9/1, Wed 22:35


Cさま


九月になりました。ろれちゃんのブログへのコメントに書いたように、こちらは今、秋明菊の美しい季節です。もう 20 年近く前ですが、ドーバー海峡を見下ろす英国の村で日本・台湾伝来とされるこの花を見たとき「ドーバーに秋明菊の花咲けば東の果てもさは遠からじ」と詠んでみたことがあります。今回のブログ、別に目新しいものではありませんが、もしかして一般に信じられているヨーロッパのイメージとは大部ずれているかもしれません。

さてさて、このところの体調はいかがですか。最新のライントークから察するにクレマチスさんもその他の方々も聊か暑さに参っておられる風ではありますが、まずまずのお暮しぶりのようで、おかげでクレマチスさんのデラウェアの収穫も豊作とのこと、ご同慶の至りです。試食させていただけないのが残念です。


体調といえば、夫も今年 81 歳になったので、前からうるさく言っている健康診断を 10 日ほど前に郷里の主治医の元で受けてもらいました。コレステロール関連の薬が追加されたことを除けば以前とあまり変わりがなかったのですが、ちょっと気になる点がないでもない。それに対して医師は「ドイツ人男性の平均寿命は 78 歳だからね、あんたと同い年の人間の半分は死んでいるんだからね」と無頓着っぽかったというので、私は「それ、ちょっと違うと思うわ」と異議を唱えました。

確かに 78 だか 78.5 だかの平均寿命になっていますが、これは実際にはドイツ在住者の人種的背景でかなり異なるのです。移民系(中近東・北アフリカ・非EUの欧州国〈例えばモンテネグロや北マセドニア〉)は 2 世・3 世でもせいぜいで 72, 3 歳。移民とは呼ばない外国人、つまりEU加盟国出身でドイツで働いているがドイツ国籍ではない人々、例えばクロアチア人、スロヴェニア人、ブルガリア人などの平均寿命は、バルカン半島について調べたら 73 歳となっていました。いわゆる白人ドイツ人でない人の割合は近年 2 割を越えていますので、これらの人々がドイツ在住者の平均寿命を下げていると思われます。私の周りには90 歳代がわんさといて、彼らは皆いわゆるドイツ人、貧富の問題もありますが、やはり生活様式や意識の差が大きいようです。


この差異は健康に関してのみでなく、学力の格差にも表れ、あるとき学力の国際比較ではフィンランド、韓国、日本などがたいていトップになるという話をしていたら、親戚のドイツ人女性が悔しそうに「そりゃそうよ、フィンランドなんて外国人はほとんどいないし、日本や韓国だって移民はお断りなんでしょう」と言うので気が付きました。なるほど、アメリカがこの国際比較に参加しないのは、そういう背景があったのですね。

学力の話は別にして、寿命に関しては肌の色や出身地による差は否定できないようです。二カ月ほど前にドイツの新聞に、コロナでアメリカ人の寿命が落ち込んでいるという記事がありました。死亡者の数はものすごかったですものね。そして今もそれは終わっていない。

記事によると 2019 年に比して 2020 年には平均寿命が 1.5 年短くなったそうで、この落ち込みようは第二次大戦以降最大なのだそうです。現在のレベルは 2003 年のそれに戻ってしまったとか。

そのことを端的に示すグラフも掲載されていたので、ブログとは別に添付します。ドイツ語ですがすぐお分かりですね。左からヒスパニック(男)、黒人(男/女)、ヒスパニック(女)、白人(男/女)となっています。近年はヒスパニック系・黒人系の人口が増えていることから、平均して 1.5 年の下降というのは実際は少なすぎるようにも思えます。

在米の中国人・韓国人・日本人などの平均寿命は一般に白人より長く、日本人の場合は本国にいる人達よりも長生きだそうなので、それで押し上げられているといっても、アジア系の人口は知れたものです。


それはともかく、こんな外国のニュースを報道する前にドイツ国内の状況を調査すべきとも思いますが、移民とか外国人という言葉に対しドイツ人の一部は異常なほど敏感で神経質で、すぐに「差別」「閉鎖的」「外国人排除」、もっとひどいときは「ファシスト」などという非難が巻き起こるので、客観的な調査ができないのかもしれません。ずっと以前にひょこむに書いたことがありますが、ナチの時代の優生法や障害者抹殺などの暗い歴史があるので、奇形の子が次々に生まれても国はその原因の究明を嫌がり、それがサリドマイドの被害拡大につながったそうです。負の歴史はさらに負の事象を生むことが珍しくありません。冷静な判断や理性という普遍的な徳にすら、敵は多いということです。

それであつものに凝りたドイツが自国のことを棚においてアメリカの状況を云々するのは、まったく最近の欧州らしい現象と笑ってしまいます。植民地の過去に悩むフランスも似たようなもの。その分他の国に説教してうるさいことを言い、法律にすら口出しして、目下の欧州先進国が「道徳帝国主義」で批判されているのは納得です。

それでは今回もよろしくお願いします。


B



Re: AW: ブログ

2021/9/11, Sat 05:32

B様


今回も返信メールが遅くなりました。

あなたのお気に入りのキンポウゲ科のシュウメイギクに寄せての消息を楽しく読ませていただきました。

また現地の日常生活の裏も表も知り尽くしたびすこさんならではの今回のブログ「欧州の不潔な暮らし」は、パリの街路が実は汚物の排出溝であったというようなブッキッシュな知識が今も現実に継続しているような思いで腑に落ちました。また想像をたくましくすれば、いまだ終焉しないコロナなどの感染症による犠牲者の数が 2 桁も違う彼我の相違の真の理由の第一が、生活習慣にあることの間接的な証言にもなっているように思いました。


東京は 9 月に入ってから記録的な低温で曇天が続き、過ごしやすくて助かっていましたが、そのせいか、夏の疲れが一度に出てきたのか、私のほうに油断があったのか、体調は最悪のサイクルに入っておりました。いつかお話ししたかもしれませんが、コロナ以前から、私は勝手に自己診断しているのですが、年に 2, 3 回はウィルス性の感染症に冒されて体調を崩します。今年の夏はコロナのせいと悪天候が続いて極端に外出の機会がすくなかったことも運動不足による体調の悪化を促進したかもしれません。ウィルス感染の初期の兆候は口内炎です。歯茎が切れて違和感を感じたら次は奥歯が浮いて強烈な肩こりから、不眠と倦怠感に襲われます。口内炎から奥歯のうっ血、肩こり、腰痛と不調の個所が徐々に下方に移り、最後は強烈な便秘に襲われます。

少しさかのぼりますが、前便でふれたように今回は奥の入れ歯が浮いて外れてしまい、お盆休みを挟んだ歯科通いの時期とかさなりました。 銀歯を嵌め込む日はまだ歯茎が鬱血状態でしたが、歯科医の、「はい、強く噛んで」という声に促されて噛むと目が飛び出るほどの痛みを感じましたが、ひたすらこらえて何とか歯科工事を完了しました。細菌感染に効く抗生剤のようにウィルスに効く薬はありませんが、通常は 2 週間程度で抗体が形成されて自然回復するのですが、この間は用事のないときは昼間でもベッドに転がってひたすら、肩やひじや、顔面、首筋の自己指圧で体液の循環をはかります。


とはいえ、この間もライントークでおわかりのように、緊急事態宣言の期間中はゆっくり見られるのでチャンスと見て、北の丸の国立近代美術館に隈研吾展を観に行ったり、神保町を徘徊したりしていたので、酷暑の夏の年寄りの冷や水が体にこたえていたのかもしれません。

それに追い打ちをかけたのが 4 年間使っていたスマホの不調でした。壊れたわけではありませんが、能力の限界を超えた酷使の結果、ライントークの盛況もあってメモリー不足が顕著となって、同じ HUAWEI の少しランクアップした端末をアマゾンで注文して取り寄せ、半日がかりでシムカードを差し替えての機種変更とラインのお引越しを敢行しました。


ところで、隈研吾展ですが、2020年11月3日-2021年1月3日の高知県立美術館を皮切りに、2021年1月22日-3月28日の長崎県美術館を経て、6月18日-9月26日の国立近代美術館へと巡回しているユニークな展覧会で大変面白かったです。

「新しい公共性をつくるためのネコの 5 原則」というコンセプトに基づいて、コロナの時代の新しい建築の方向性を見出そうという建築家の意図がよく視覚化された展示だとおもいました。


とりわけ興味をひかれたのは、ほかの展示スペースと区切られて特別な意味づけを与えられた「梼原(ゆすはら)の隈建築」という映像インスタレーションでした。高知県高岡郡梼原町は愛媛県に隣接する高山にある林業の町ですが、私が小学校 2 年の時、父の転勤で初めて高知市の西町というところに住み始めたとき、隣が食料品の万事屋で、よっちゃんという働き者の娘が梼原の出身でした。


それでゆすはらという地名に反応したのですが、この展覧会のよくできた目録に掲載された奥野克人(高知県立美術館)の「隈研吾と檮原、高知」という論文によれば、隈研吾という建築家が木という素材に目を開かれたのはニューヨークで知り合った高知で建築設計事務所を営む小谷匡宏の梼原公民館(木造の芝居小屋)保存運動に誘われたことが機縁で、木造建築の可能性を再発見し、初めて梼原を訪れた1992年から30年にもわたって、隈と梼原の協働関係が築き上げられた。

今回の展示では、梼原木橋ミュージアムが印象的でしたが、雲の上の図書館、雲の上のホテル(梼原町地域交流施設)、まちの駅「ゆすはら」も紹介されています。「木造の芝居小屋「梼原座」の保存運動の中心人物であった高知の友人小谷匡宏さんに誘われて、…すっかり梼原のファンになった。木という素材に興味を持つきっかけも、地元の職人(和紙、左官、竹細工)とのコラボレーションのおもしろさを知ったのも、梼原である。」(目録153ページ)

雲の上の図書館(上記隈研吾展ホームページより)


さてドイツでの平均寿命に移民の人種構成が大きく影響しているということですが、統計なんてほとんどが間に合わせのものですから、どれほど実情を反映しているかは常にその数字の出所を見極める必要がありますね。新型コロナの感染者数を国別に棒グラフにして比較するなどは間に合わせもいいとこで、国によってカウントの仕方が違うのに比較することにどれだけ意味があるか疑問です。

日本の感染者数は今でも毎日ニュースの時間に報道されていますが、その時々の保健所の都合でPCR検査をやっているので、いくらでも数字は恣意的に動かせるはず。むしろ自宅療養者という名の医療難民が16万人もいることのほうが重要な数字なのに、こちらのほうにフォーカスした報道はすくないように思います。


オリパラを敢行すれば、支持率がアップするから解散総選挙で世論の支持を得て自民党総裁選挙は無競争で再任、のシナリオを想定していたが案に相違して支持率は最低、そこで延命を図って総裁選挙のまえに内閣改造で求心力を、その前に党人事に手をつけようとしてみたものの誰もついてこない*と知って一度は引導を渡した二階幹事長を呼び戻して総裁選挙不出馬を告げたという菅首相のお粗末ぶりは、コロナ対策に専念するためという不出馬の説明も空々しく、緊急事態宣言の9月末までの延期もほとんどニュースバリューはなく、首相会見の実況はNHKのみ。

*「お前と一緒に沈められねえだろ」声を荒らげた麻生氏 首相“孤立”の瞬間(西日本新聞 9/4(土) 8:28配信)


世間の関心は新総裁候補の動向に集まっています。宏池会の岸田文雄前政調会長がいち早く手を挙げたましたが、主張の中身は新味はなく、安倍前首相の後見を得て右派の受け皿となって出馬した高市早苗前総務相は女性という以外訴えるものは皆無、三人目に出馬した河野太郎行政改革担当相が国民の人気投票では未だ出馬の意思を曖昧にしている石破茂元幹事長とトップを二分しているが、党内若手の支持も集めていて今のところ最有力候補のようです。


あとアフガニスタンのことが気になりますが、昨日明らかにされた閣僚名簿の結果は案の定、バイデンや西側諸国の期待をうらぎるものでした。 

タリバンの糸を引いているのがパキスタンで、パキスタンの後ろ盾がインド洋に出口を求めている中国という図式がはっきり見えてきて、ミャンマーと同様厄介な方向にどんどん進んでいるような気がします。どちらの国も対日感情はわるくないようですが、アフガン邦人救出時の日本の外務省のお粗末ぶりに象徴されるように、日本政府の国際感覚は絶望的です。民間人は頑張っていますが。


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