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執筆者の写真クレマチス

BBCワールドニュース―米黒人暴行死事件裁判報道

昨日のBBCワールドニュースを見て驚いた。30分間まるまる米ミネアポリスで行われている「George Floyd : DerekChauvine 裁判」の実況中継にあてていたからだ。


その他のニュースはすべて最下段の字幕テロップで流すという方式。日本なら、まるで大災害時の緊急ニュース番組仕様だ。今朝も全く同じで、BBCのこの裁判に対する関心の大きさがわかる。私が見ているのは毎朝早朝放映される千葉テレビの同時通訳の画像を録画して、半日遅れで見ているのだが、今回の番組は4月1日と2日の早朝の分で、これは BBC で放映される半日遅れのものであるから実況中継とは言っても丸1日は遅れて見ていることにはなる。

今朝の放送では犠牲者となったジョージ・フロイドのパートナーの Courtney Rossという女性が証言席に立って直前の犠牲者の様子を、延々と証言させられていた。争点となっている犠牲者の死因が、鎮痛剤依存症のための服薬が関わっているかどうかということを明らかにしようと被告側弁護士の質問が執拗に続けられているようであった。法廷にカメラを入れて生放送など日本では不可能だが、すべてオープンにして包み隠さず真実を追求する場面を、世界が共有している。



そこでこの事件をおさらいしてみる。

全米ばかりではなく西欧社会、全世界でも大きな関心を呼んでいるこの事件も、事件発生直後のセンセーショナルな画像は繰り返し放映していたけれど、1年近くが経過して、その裁判に対する関心となると、日本のマスコミの反応は鈍い。

それと比較してBBCの取り組みは目を見張るものがある。陪審員裁判で地元の陪審員に全世界が他人事でなく注目しているという様子を、法廷の中に持ち込んだ実況中継のカメラを通して全世界に拡散して圧力をかけようと言う、 BBC 意志がはっきりと伝わってくるようであった。

最近のアメリカでの人種差別や排外主義の傾向がアジア系の人々に対して激しくなっていることをみても、この問題が日本人にとって他人事でないことは明らかだ。逆にミャンマーやウイグルの人々に対する入管法の改悪など、日本政府の全く頓珍漢な対応ぶりは、コロナ対策の出鱈目ぶりと軌を一にするというほかない。新年度になって人事が刷新された日本のマスコミ・ジャーナリズムに頑張ってほしいところだが。


ネットで調べてみて比較的しっかりした報道している日経新聞と BBC のホームページに出ている記事と比較してみた。被告の警察官の呼び方がショービンとチョービンという風に違っているが、そのまま引用する。どちらが正しいかわからない。

以下に事件の概要と裁判のポイントがわかるように、それぞれの記事を抜粋引用してみる。


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https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN3002K0Q1A330C2000000/

米黒人暴行死事件公判、検察側「過剰な力で押さえつけ」(日本経済新聞2021年3月30日 6:22 (2021年3月30日 7:07更新)

【シカゴ=野毛洋子】米中西部ミネソタ州ミネアポリスで2020年5月に起きた黒人男性ジョージ・フロイドさんに対する暴行死事件で第2級殺人罪などに問われている白人元警官デレク・ショービン被告の実質的な公判が29日、同州地裁で始まった。今回の公判は、全米で大規模な人種差別抗議デモや騒乱を引き起こした事件を扱った歴史的な法廷論争になる。公判の模様は大手メディア各社が生中継で伝えた。

公判が開かれたヘネピン郡裁判所は柵や鉄条網で囲まれ、州兵が警備に当たる厳戒態勢が取られている。

審議は最高40年の禁錮刑である第2級殺人罪などで有罪を求める検察側の冒頭陳述で始まった。検察側は、被告が「過剰な力を用い、9分29秒間、無抵抗な被害者を死の危険にさらした」と陪審員に訴えた後、フロイド氏が「息ができない」と繰り返した事件当時のビデオ映像を見せた。これまでは、8分46秒間、被告が膝で首を押さえつけていたとされていた。

一方、弁護側はフロイド氏が逮捕の際に抵抗しており、被告は警官としての職務を果たしたと述べ、死因は必ずしも首の圧迫ではなく薬物使用や心臓病など持病に起因したとの見解を示した。

公判の結果は遅くとも5月初めに出る見通しだ。地元弁護士のリチャード・フレイズ氏によると通常なら「12年から25年の禁錮刑だが、今回は30年以上もあり得る」と話す。有罪が証明できず無罪になる可能性もゼロではないという。

市内では抗議運動が再び活発化している。週末には「正義なしに平和はない」との横断幕を掲げた住民の抗議集会が開かれ、29日はフロイド氏の遺族や公民権活動家が記者会見で「世界中が見守るなか、米国の法的正義が試されている」と話すなど、公平な裁判を求めた。


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https://www.bbc.com/japanese/56611815

故ジョージ・フロイドさん、救急隊の到着時に「脈なかった」 元警官裁判で証言

(「BBC NEWS Japan」 7時間前)

昨年5月に米ミネアポリスでジョージ・フロイドさん(当時46)の首を膝で 9分以上押さえつけて死亡させたと殺人罪で起訴された元警官の公判で 1日、救急隊員 2人が自分たちが現場に到着した時点でフロイドさんには脈がなかったと証言した。

殺人と故殺の罪で起訴されている元警官デレク・チョーヴィン被告(45)は、罪状を否認している。ミネアポリス市内にあるミネソタ州ヘネピン郡地裁での裁判は、3月末から実質審理が始まった。

セス・ブラヴィンダー救急隊員は、出動要請を受けた当初は、人命に関わる事案ではない印象だったが、現場に到着した時点でそうではないと分かったと法廷で証言した。

自分たちが現場に着いた時は警官たちが誰かともみあっているのかと思ったものの、フロイドさんがぐったりしているのにすぐ気づいたという。容体を判断するため、チョーヴィン被告にフロイド氏から離れるように言う必要があったと、ブラヴィンダー隊員は述べた。

… ペアを組んでいるデレック・スミス救急隊員はフロイドさんの首に指を当てて脈を確認しようとしたものの、感じられなかったとして、「一般的な意味では、すでに死亡していると思った」と証言した。「自分が現場に着いた時点で、患者に対する医療行為は行われていなかった」とも、スミスさんは述べた。

… ブラヴィンダー隊員は、病院へ向かう途中にフロイド氏の心電図波形がフラットライン(一直線)になり、心停止となったことや、スミス隊員による処置を手伝うために救急車を停車させたことなどを話した。フロイドさんを蘇生させようと手を尽くしたものの、回復しなかったという。

フロイドさんの恋人も証言

この日の公判では、フロイドさんの恋人コートニー・ロスさんも証言した。フロイドさんを直接知っていた人が証言するのは初めて。

ロスさんは、自分たちが知り合ったのは 2017年で、救世軍のホームレス避難施設で警備員として働いていたフロイドさんと、施設のロビーで出会ったのだと話した。息子の父親に面会しようとロビーで待っていたロスさんに、フロイドさんは自分のために祈ってくれないかと頼んだという。

「とても素敵で、当時の自分は神様を信じる気持ちをかなり失っていた」とロスさんは述べ、その晩に自分たちは初めて口付けをしたのだと話した。

自分たちのこのなれそめが「とても好きだ」と話したロスさんはその上で、2人とも慢性的な疼痛(とうつう)に悩まされており、麻薬鎮痛剤オピオイドを含む薬への依存症にかかっていたと話した。

「依存症というのは、一生の戦いだと私は思う。すっかり消えてなくなることはないし、自分が永遠に抱えることだと思う」とロスさんは述べたが、事件当時のフロイドさんがオピオイド系の薬を使っていたどうかには触れなかった。

フロイドさんの遺族を代理を務める弁護士たちは、元警官の弁護士たちが「ジョージ・フロイドの死因は鎮痛剤フェンタニルを摂取していたからだという筋書きを構築しようとしている」と非難した。

「ジョージが死ぬ様子をビデオで見た全世界の人たちに、あらためて指摘したい。デレック・チョーヴィンが膝でジョージの首を押さえつけ、呼吸できないようにして、命を消し去るまで、ジョージは歩いてしゃべって笑って、しっかり息をしていたことを、思い出してもらいたい」と、フロイドさん遺族の代理人たちは述べた。

無罪を主張するチョーヴィン被告の弁護団は、フロイドさんの死因は薬物の過剰摂取と体調不良で、警官たちが拘束のため使用した威力の程度は合理的なものだったと弁護を展開する方針を示している。

この日の審理ではほかに、事件当日の監督責任者だったデイヴィッド・プレーガー警官が証言。当日の夜になって初めて、チョーヴィン被告がフロイドさんの首を膝で押さえつけていたことを知ったと述べた。プレーガー警官は、「事態を掌握し」容疑者に手錠をかけ終えたら、ただちに膝による圧迫をやめるべきだと通常の逮捕術について説明。「人がずっとうつぶせになっていると、呼吸が妨げられる」ため、姿勢を変えさせるのが望ましいと述べた。

なぜこの事件が重要なのか

助けてくれと懇願するアフリカ系男性の首を、白人警官が膝で長時間押さえつけ、やがて男性がぐったりする様子を写した映像は、世界中で激しい怒りを巻き起こし、アメリカ全土のほか世界各地で人種差別や警察暴力に抗議するデモが相次いだ。

フロイドさんの死の前からアメリカでは、アフリカ系市民が警官によって死亡する事件が相次いでいた。

バラク・オバマ元大統領は、一連のデモは「警察慣行や司法制度全般を改善しようと何十年も続いた取り組みが失敗し続けてきたことへの、もっともないらだち」の表れだと話していた。

アメリカでは、警官に撃たれて死亡する被害者のうちアフリカ系市民の割合が突出して多く、薬物事件で逮捕されるアフリカ系市民の割合も同様に多い。また白人市民に比べて実刑判決を受ける確率は5倍に達する。

一方で、容疑者が逮捕時に死亡しても警官が起訴される割合は少なく、ましてや有罪判決が出ることは珍しい。それだけに、今回のこの裁判はアメリカの刑事司法制度がこのような事案を今後どう扱うかの重要判例になると、注目されている。

チョーヴィン被告は法廷でメモを取り続けている(1日、ミネソタ州ヘネピン郡地裁)


閲覧数:24回1件のコメント

1 Comment


hmdhonau
Apr 02, 2021

そうでした、昨年5月にBSニュース(ABCとBBC)で見て驚いたことを思い出しました。事件の内容はブログを参照していただくとして、その後気になることがありました。黒人差別問題は当然大統領戦の論点になります。それでどこの番組だったか、これはトランプに不利になるというようなことをある人が言ったら、アメリカ政治に精通しているらしき女性が、いや、これは下手に長引くと白人層の反発を強めて逆に有利になりますよ、と言ったのです。アメリカという国には他の国の人間にはちょっと想像できない部分があるのだと改めて思いました。

それから、最近になって数十億円に上る賠償金がフロイド氏の遺族に支払われることが決まったようですが、これも一部の白人層に強烈な憎しみを抱かせる要因になると思います。この慰謝料自体、日本でも欧州でも考えられない金額です。ちょっと話が違いますが、先日フランスで、製薬会社と許可官庁の癒着で糖尿病/高コレステロール血症の危険な薬が長く野放しになっており、致命的な副作用で2千人ほどが亡くなった事件の裁判が行われましたが、この薬だけで年間39億円売りあげていた会社に課された罰金は3億5千万円でした。これが「上限」という法的根拠が全く分かりません。官庁の払う罰金は3千9百万。

それにしても、米国における黒人対非黒人、白人対非白人という対立の歴史は長いですね。

私の世代の記憶に新しいのは、ちょうど30年前に黒人が4人の警官に暴力を振るわれ大怪我した事件で1年後のその警官たちに無罪の判決が下されたことを機に広がったロサンゼルス人種暴動です。

リンカーン時代の南北戦争で奴隷制度が廃止されたのが1860年代初め。それから、後に黒人初の最高裁判所判事になったサーウッド・マーシャルが弁護士として担当した裁判で、それまでの「分離すれど平等」が覆され、学校を含むすべての公共施設の使用が黒人にも可能となったのが、1950年代の半ば。

その後の67年間に黒人が大統領になるという歴史上の大事件もありましたが、制度は法律や裁判で変えられるものの、人の心は50年やそこらで、いや、おそらく百年経っても、変わるものではない、ということがよく分かります。

日本ではあまり報道されることはありませんが、フランスでの旧植民地からの移民の問題(もっとも悲惨なのは、アルジェリア独立戦争でフランス側について、そのあげく母国からもフランスからも見捨てられた人々です)や、英国においては日本人から見て区別のつかないアイルランド人への英国島住民による根強い差別など、天は人の上に人を作らずとも、人は人の上・下に人を作る、ということが痛感されます。

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