12月8日(木曜)晴れ
とりあえず昨日も午前中、新宅の整理をしようと配線類を外したりいらない付属物を取り除いたりしているうちにあっという間に時間が過ぎた。でも考えてみれば、その時間だって、新宅の喜怒哀楽の染み込んだ時間の長い経過に比べればどうということのない時間だと気が付く。
業者が台所の作り付けのドアというドアや開き戸を力任せに取り壊し、取るのがめんどくさい蝶番だけ残っている。蝶番はくっついてはいるがひん曲がっていてそれを取り外すのに苦労した。立場が変われば…売り物の「空き家感」を出すために僕だって同じことをしただろう。エアリーなスカスカ感は購入者のリフォームの意欲を呼び覚ます。そのためには商品価値を下げる古びて汚いドアや襖は目障り。
暖冷房効率を上げるために部屋は、とりあえず、すべて厚手のカーテンで仕切ることにした…安上がり。どうせ奥まった目立たない家なので窓周りのカーテンも当分は省く。そのかわり断熱用の安物のシートを貼って済ますことにする。無難なベージュのカーテンで、あちこち仕切ればもうそれで完了。年内には格好がつく。旧式のエアコンを使うこともないだろう。電気ストーブの部分暖房で間に合わす。年寄りのひとり居住まいにはそれがお似合いだ。もうあらかたリフォームは終わった気分。残った仕事も僕の手に余る仕事は何もない。こんなに古い家なのに雨仕舞い(あまじまい:雨が室内に入らない工夫)も丁寧だし、雨が漏った形跡も…ネズミが出た形跡も既に対応済みだった。人けのない何年間かの冬の間、空き家では…屋根裏でも温度が上がらずネズミにとっても安住の地ではないし、第一食べ物がない。ゴキブリも寒い冬を越せないので全滅。不具合が出たらそのつど対処すればいい。そうしない人が多すぎるので家は持たない。その他、気になるところも簡単に直せそう、ラッキー。
月曜日、兄に会ったとき僕は兄に宣言した…兄貴、僕は今ね…とても幸せ、だって心配事がないんだもん…兄は黙っていた。この間、兄のお気に入りのジーンズの破れをファミリーレストランで持参の針と糸で直してあげた。今度会う時また、兄のお気に入りのふわふわのジャンパーのポケットのほつれを直すことを約束している。人生においてほころびやほつれを直してくれる人がいればその人は幸せだ。したがって兄にも幸せと言ってもらいたい…あはは🤣
午後に3人の方に会った。最初に会った男性は僕と同じように家の一部を解放している方。大先輩。とても元気なのですが膝がちょっと、とおっしゃっていた。膝の管理はなかなか難しいと思います。無理をしないで使うのがコツだと思っています。適度に刺激を与えないと骨が成長しません、聞きかじり。気持ちの柔軟性は体の柔軟性に直結していると体験的に思っているので、年齢に合わせてだましだまし使っています。旧宅の急な階段の上り下りは僕にはちょうどいい運動になっている。
2時ごろ初めてお会いする2人連れのお片づけクラブのメンバー候補者の方がお見えになりました。僕の暮らしの管理方法を一通りご説明申し上げ…現在のお悩みを聞いて差し上げた。帰りしな、お連れの方が…あー面白かった…とおっしゃってくださったのでほっとしました。他人の生活を垣間見るのは何より参考になります。僕は仕事で30年間それをしてきました。その結果をサンプルとして見ていただける。つくづく人生に無駄はないなあと思いました。
「新宅の喜怒哀楽の沁み込んだ時間」、それを愛しんでくれる人を家は待っていたのだと思います。家霊という言葉がありますね。どうも迷信っぽく、あるいは陰陽道的に、人を脅かすのに使われることが多いですが、人懐っこい家霊、寂しがり屋の家霊もいるはずと私は思っています。ついでに住人にちょっといたずらしたりして。
家霊で思い出したのですが、地霊という言葉もありますよね。これは日本だけの話ではなく、ラテン語でgenius lociといい、geniusは霊、lociは場所(>localらしい)。なぜこんな話を持ち出すかというと、日本の古来の歌はもともとこの地霊への挨拶だったんですって。それから地褒めも必要。これはまず天皇が褒めまくらなきゃいけなかった。(その真似をしているのが、いや、その伝統を守っているのが、歌会始めってわけか、と納得。)
仕切りに無難なベージュのカーテン、というのも納得。この色だと他の色とすぐ馴染むし、刺繍したりアップリケをしたり(いちまるさんはしないでしょうけど)しても、すんなり受け入れられます。
窓のカーテン無しといえば、オランダなんかではカーテンをしないんですよ。アムステルダムのホテルで運河のすぐ向こうの立派なアパートの窓にカーテンが全くないのでびっくり。居間があってそこでランプを点けて読書したりお茶を飲んだりしている人が丸見え。こうして人の眼に触れることを楽しんでいるというのです。どの部屋もきれいで洒落ていて、モデルルームにでもいる気分なのか、役者気取りなのか。ホテルの客や向かいのアパートの住人は観客ってわけで、互いに見せっこして楽しんでいるのですね。こういう嗜好があるから「飾り窓の女」なんていうのも・・・あ、話を変えましょう。
「雨仕舞」という言葉は初めて聞きました。なるほどね。雨の多い高温多湿の日本の建築ならではの用語ですね。こんど工務店のおじさんにあったら、古くからの建築用語(多分、和語が多いのでしょう)をちょっと教えてもらおうと思っています。