望み:雫井脩介著:角川書店2016年8月初版
サッカー好きの少年が高校生の時の練習中の怪我がもとで、リハビリと進路について模索の日々を重ねていく。じつは、その怪我が他の仲間の故意によるものだと判明したあと、本人の思いとは別に周りの仲間たちが動いていく中で話がこじれ殺人事件に発展してしまう背景に何があったのか…家族それぞれの揺れ動く想いが語られていく。未来を閉ざされる加害者と被害者。今も新聞紙上に浮かび上がってくるこの種の少年犯罪を扱って、一見そっけない少年が、社会にきちんと向き合うために静かに格闘している背景が死後明きらかになってゆく。残された家族のひとりひとりに大きな宿題を残して。
この小説を読んだ後に少年犯罪を読み解く元気は失せる、僕の場合。これはもう社会問題だ。一人ひとりに負わせるには負担が大きすぎる。少年たちの大人びた打算、家族それぞれの思惑、ジャーナリストの思いが静かに事件判明後に出口を見失いそうになりながらもそれぞれの心に沈潜していく。軽挙、軽率な行動が何人もの未来を蝕んでいく。こんな事件が起きなければそれぞれの日常、心の葛藤に気づけない家族、、、一人一人が本当に一生懸命生きていてもそれぞれの想いの確認作業は一番最後になってしまう現実を思い知らされました。読後の感想は…現実の重さが辛いです。僕自身、人には見るべきものを見て聞くべきを聞くべき、みたいな態度でいますが…聞きたいことだけを聞き、見たいものだけを見ている現実も自分自身の中に発見して、これまた辛いですね。災いの端緒はそこら中に転がっている、という悲しい現実を心にしっかり受け止めとこうと思いましたが、かといって、物言えば唇寒し秋の風…と黙り:だんまりを決め込むのも嫌だし、僕はやっぱり砂埃でもいいから風を起こして多少の行き違いはいとわずに世間を渡っていこうと思います。少しは掻き回さないと人の心なんてなかなか表に出て来ません、そう思っていますが間違ってますでしょうか?
(この本は立石図書館のリサイクルコーナーにあったもので、中央区立図書館の除籍済のハンコが押してありました)
コロナがピークだったこの1年あまり、そういえばあまりこの手の事件の報道は無かったように思いますが、やっぱりあったのですね。
コロナで大人も子供もいつもより閉塞感が半端なかっただけに心の鬱積も大きくなったと思います。
年寄りの車のブレーキとアクセルの踏み間違いによる暴走事故は結構報道されてましたけど。
世の中がどんどん暗くなっていくようで耳にするだけでも辛くなりますが、確率的には矢張り少数でやはりこの世は善意の人の方が殆どではないかなと思いますね。
テレビのつるべが飛び込みでいろんなお宅を訪ねて触れ合う番組がありますが、いずれも人とのふれあいを楽しむ心暖かな人達ばかり。
こういうのを見てると、やっぱり日本は大丈夫だとホッとします。
テレビ番組も、もっともっと明るい生活者を登場させて人心を安心させてほしいものです。