大暴落・ガラ:幸田真音著:中央公論新社: 2017年3月刊
日本初の女性総理大臣として三崎内閣がバタバタとスタートするがスタートと同時に線状降雨帯が荒川上流を襲う、荒川上流を守る国土交通省管轄の荒川下流河川事務所の所長らの懸命な努力にもかかわらず東京は雨も降らないのに深夜3時ごろに荒川は決壊し洪水は都心にまで及び首都機能麻痺、死者数百人を出す大惨事、金融市場も大暴落:ガラ、に陥るという有り得べきストーリー。
疑似体験をしたいためにこの本を読んだので本の中からイメージの助けとなる箇所をゆるゆる引用していきます、少しでも疑似体験ができましたら、おなぐさみ^_^。
(荒川放水路工事中に起きた自然災害の極めつけは、大正12年9月の関東大震災だ、、、)
58ページ
…ただし、この開削工事で生まれた当時の広い河川敷が、はからずもこの震災時に周辺住民約15万人の避難場所を提供することになったのは、不幸中の幸いと言うべきかもしれない。ともあれ、ようやくのことで、放水路のすべてが繋がり、通水が行われたのが、この翌年大正13年(1924年) 10月のことだ。中略…
それでも継続されてきた大々的な放水路掘削工事は、ゆうに20年という歳月をかけて続けられる。そして、ついに現在の荒川の姿へと連なる第1期改修の完成、竣工を見たのは、昭和5年であった…。
65〜66ページ
現実に、この前起きた鬼怒川の決壊をみても被害の大きかった常総市は隣接するつくばみらい市等に避難所を開設してもらい、市をまたいで避難するという事態になっている。
ましてや、首都圏となると話はそれだけでは済まなくなる。都心に乗り入れている各鉄道会社、電気通信関係の事業者、警視庁や東京消防庁、東京管区気象台や学校、社会福祉法人なども含め、全員が情報を共有し、互いに連絡を密にして、まさに一丸となって対策に臨むという強い意識が必要となる。
(…荒川上流の二瀬ダムの管理所長をしているその道40年のベテラン辻村と荒川下流の管理所長里見との会話)
247ページ
「なぁ里見さん…水門は大丈夫でしょうな」
また、絞り出すような(辻村の)声が聞こえた。その辻村が東京まもる岩渕水門のことを言っているのだ。「はい。いまのところまだ閉めるまでには至っておりません。警戒レベルを高めて、慎重に状況確認を続けているところです」
平常時は水門は開いており、荒川から隅田川へと水を流している。だが、いざとなったらしっかりと閉じて、隅田川には一滴も流れないようにし、東京を水害から守る砦となる。
「そうですか。くれぐれも油断せぬよう」
中略…岩渕水門は3つの門、つまり3枚の青い頑強な巨大金属板でできている。開閉するにはその1枚ずつを順に自動操作していくのだが、1枚閉めるのに45分はかかり、どんなに急いでも、すべてを閉め終えるのにほぼ1時間が必要となる。
249ページ…荒川下流の水位が4メートルを超えたら、水門を閉めることが操作規則で定められている。隅田川の堤防は、荒川放水路と違ってとても低いので、両者を隔てる岩渕水門を閉めて水が流れこまないようにしないと、溢水して、隅田川流域はほとんど水浸しになるからだ。
251〜252ページ
(二瀬ダムでの辻村と若い職員の青木との会話)、、、
「そうだ、忘れるなよ、青木。
うちのダムはな、洪水調節の2180万トンのうちの2000万トンは周辺農家のための灌漑用水を兼ねている。全部流していいわけじゃないんだ。だからな、一口に予備放流といっても、はたでみるほど単純じゃない。もしも、大雨を懸念しすぎて早々とダムをカラにしてしまって、それで、万が一台風が予報どおり来なかったらどうなる?」
雨が降らなかったら、諸手を挙げて喜ぶ、と言いたいところだが、そうはいかない。大雨に備えてダムの水を流しすぎてしまったら、そして、予報通りの雨が降らなかったら、夏に向けて渇水状態となり、田畑が干上がって、周辺農家から激しく非難されることになる。ダム管理事務所では、そのあたりまで細かく配慮することが求められる。
257ページ
昭和57年(1982年)に岩渕水門が完成して以来、実際に水門を閉めたのは過去4度。199I年、99年2001年と続き、直近は2007年の台風のときだ。もちろん、里見がここに赴任してからはこれが初めてのことである。
だが、ここが決断のときだ。隅田川流域を守るために岩渕水門を閉めると、堰き止められた水は、荒川の河川敷で洪水となる。東京を水害から守るために、こちらでわざと工事を起こすわけである。 中略…里見が次々と指示を出す。水門を閉めたら、途端に荒川は水かさが急上昇を始めるだろう。だが荒川の河川敷には、ー帯を住居にしているホームレスたちがいる。いまは深夜だ。知らずに寝ていることがないように、まずは彼らに周知する必要がある。
でないと必ず犠牲者が出る。それだけは、なんとしても避けなければならない。
289ページ
(妊娠している里見の妻、玲子は、夜中家の異様な匂いと泥水が流れ込んでいるのにやっと気づく恐怖…)
自分はいま被災者なのか。いったいどうしてこんなことになってしまったのだろう。なんの前触れもなく、そして否応なく、突然被災者になってしまう。自然災害とは、かくも理不尽で、残酷なものなのか。そんなことがまさかこの身に起きてしまうなんて。
ずぶ濡れの身体をしっかりと救助員に抱きかかえられ、慈愛に満ちた励ましの声をかけられて、指示に従ってゆっくりと進みながらも、玲子にはまるで現実感がなかった。
それでも気持ちを奮い立たせて、ようやく顔をあげるとその先にはニュースで何度か目にしたことのある風景が拡がっていた。
一面泥の川と化した道路を黒いゴムボートが被災者を乗せて進すあの構図である。はるか遠くのほうで、消防車のサイレンやヘリコプターの音も聞こえている。
日本の各地で洪水が起き、そのつど救助活動が展開される様子が、これまで何度テレビ画面で報じられてきたことだろう。荒れ狂う濁流に、家屋が根こそぎ流される生々しい情景を目にしたことも1度や2度ではない。
ただそれは、玲子にとってはいつもあくまで他人事だった。はるか遠くの無縁な地で起きている、気の毒な出来事に過ぎなかった。そんな泥水が、現実にわが家とわが身を襲い、その「被災者」にまさか自分がなるとは、どうして一度も考えたことがなかったのだろう。
293ページ
荒川の場合、水門を閉じたあとでも、中流部の広大な河川敷や荒川第一調節池などが、一定の水量低減の役目を担ってくれるように設計されている。だが、今回のような極端な降雨量では、いかんせんそれだけでは限界がある。こういうケースを想定して、調節池の増設を里美もこれまで再三進言してきたのだが、各方面の利権が絡むだけに、改善は遅々としてして進まなかった。
(ついに荒川が決壊…)
326ページ
…これが… 、これが本当に東京の姿でしょうか。どこもかしこもあたりは茶色の泥水ばかりです。あまりに変わりはてて、信じられない光景が拡がっています…。
途切れがちの声が、現場の酷さをかえって正直に伝えている。
…未明に三崎総理による緊急緊急事態宣言がなされ、各自治体が中心となって避難指示が出されていました。ただ、就寝中の人が多く、雨がさほど強くなかったことも災いして、実際に避難した人はごく一部に限られていた模様です。死者、行方不明者は少なくとも600人を超え、浸水家屋は70万軒に及ぶだろうとも言われていますが、なにぶん各所で通信網が遮断されていますので、被害は今後さらに増えることが予想されています…。
327ページ
(株式市場の混乱)
…案の定、今朝の株式市場は、開いた途端に全銘柄へ一斉に売り注文がはいったらしく、日経平均株価は始まってすぐに千円を超す下を記録し、さらに史上最悪の下げを更新中だ。桐澤らと同じように深夜に心配で出社した担当者たちが、かろうじてそうした売り注文に対応しているのだろう。
386ページ
(洪水の後、ポンプ車を使った大掛かりな各地の排水作業が始まっている、里見のいる管理事務所の会話)
「それにしても、都会の瓦礫は、量も半端ではありませんな。最近の家は断熱材が大量に使われていますからね。毎回被災地をまわるたびに、何なんとかならないのかと歯痒くなります。まるで、せっせとモノを作り続けてきた人間を、天が嘲笑っているんじゃないかという気がするぐらいでね。被災された方には気の毒な言い方なんですが」
393ページ
(里見は洪水を防げなかった責任を感じ。辞表を上司である局長に出しに行った先での会話)
「あのレポートでは、決壊を起こさない対策強化はもちろんだが、むしろ決壊が起きることを前提にした、発災後の対処法に重きを置いてあった。なるほどなと俺は思ったよ。いや、正直目を覚まされた思いがした。それはおそらく俺だけじゃないだろう」
局長の指摘通り、里見の報告書には里見自身の切実な願いがこめてあった。やむなく危機が発生したとき、どうやったら被害を最小化できるかという取り組みや、心構え。さらには効率的な「緊急排水計画」。そして、被災した人々の一刻も早い生活再建や、社会経済活動の再開など、思いつくかぎり具体的な実践例として提示した。
397ページ
今回の洪水被害については、「首都圏外郭放水路があるから大丈夫だ」という過信が災いした面もある。地下鉄や地下街など、大都市ならではの地下空間に展開してきたインフラが受けたダメージは、今回が晴天下における想定外の洪水だっただけに深刻だった。
以上です。著者はかつての金融ディーラーらしく洪水後を懸念する世界中の円の売り注文の圧倒的な相場に対し大手銀行も打つ手がなく、日本国債の買い支えをしようにも原資がない日銀の立ち往生にも似た無策と、ゼロ金利、マイナス金利政策から抜け出せない日銀首脳部に、批判を加えていました。また、政府の古狸を相手に一歩も引かない気っぷの良い日本初の女性首相を、多分…多分に希望的観測を含めて書き上げていました…あはは。
法律と制度の使い方に習熟しないと政治家にも公務員にもなれないと言う事ですね。個人としては保身術に長け、仲間同士としては連帯する、、朱に交われば赤くなる、弱みであり強み…でしょうか、いろいろ考えさせられます…ありがとうございます。