新ネットワーク思考: アルバート=ラズロ・バラバシ著:青木薫訳:NHK出版2002年12月第1刷発行
この本を読もうと思ったのには訳がある、もちろん。通読してみてネットワークがなぜ広がらないかということがわかったのでとてもためになりました。結論から言えば結節点(ノード)がハブ(放射状の広がり)をもっているかどうかということみたいです。なんだそんなことかと思わないで、読み進めると著者が類推を証明していくに従い、ウェブ(クモの巣状のネットワーク)が生命体の構造に類似していることがイメージできてきます。堅牢さと脆弱性。卑近な例で恐れ入りますが金持ちは金持ちのネットワークを持っている。ビジネスマンはビジネスマン同士のネットワークを持っている。ハブの近いところにいれば、次なる結節点(ノード)の構成分子になる、という仕組み。ワールドワイドウェブが名目上は世界に広がっていながら個人の活動の広がりがイマイチなのはそのせい、と、とりあえず言っても間違いではないと思いました。検索に引っかかって来なければ浮かぶ瀬もない?
さてさて、ざっくり結論を紹介した後で…例によって引用していきます。
(その前に余談ですが、、、Twitterで見よう見まねの短歌、自分のメモ用につぶやき始めたのは何年前だったか忘れましたが、思い出話。しばらくそのままになっていて…今から3、4年前くらい?にふざけてもう一度Twitterに復活、また使い始めて、今度は面白いから俳句で世界とつながってやれ、と思って実名で3ヶ月ぐらい遊んだことがありました。それからまもなく…肺炎をこじらせて死にそうになり?!…それを機会に何人かの友達とも別れた、というか、僕自身が死んだことにしてTwitterをやめた(事情、後述↓)。その時の感想は…確かに地球は狭い🌏、という感覚でした。遠く離れた知らない人とも、あっという間に友人になれる。ところが飽きっぽい僕のこと…人間関係の距離が一気に縮まるめんどくささに恐れをなして、病気、生死を奇貨として、Twitterからフェイドアウトした、というのが本音です。今回の話題とは関係ないかもしれません、失礼しました。Twitterはwwwと関係しているので無関係とはいえませんね😉)
62ページ
「小さな世界」は、ネットワーク一般にそなわる性質である。隔たりの小ささは、われわれの社会固有の謎でもなければ、ウェブ独特の奇妙な性質でもない。身の回りのネットワークはたいていもっている性質なのだ。そしてこの性質はネットワークの構造に根ざしている。つまり、ほんの少数のリンクをたどるだけで、膨大な数のウェブページや友人にたどりつけるような構造があるということだ。
…中略…
社会的ネットワークの立場からみれば、隣家に住む人よりも、地球の反対側に住む人のほうが近いこともめずらしくはないのだ。引用以上。
※引用が唐突に思えるかもしれませんが、ページがずっと飛んだ次の引用をご覧ください(※人間の体のシステムとワールドワイドウェブの構造はどうも似ているというのがこの本の導き出した結論らしいので早いとこ引用しました↓)
第13章 生命の地図
278ページ
病気を治す生命のマップ
最近まで、ガン、心臓病、精神病には対症療法しかなかった。その一方で、これらの病気に奇跡のように効く化学物質がありはしないかと、化学研究室から熱帯雨林まであらゆる方面の探索が行われた。ある推定によると、市場に出ている薬品は、人間の体内にある3万のタンパク質のうち、わずか500ほどをターゲットにしているにすぎないという。多くの病気に対しては複数の薬の中から選択ができるとはいえ、ひとりひとりの患者にどの薬が効くかは確かめる方法は試行錯誤に頼るしかない場合が多い。
しかし細胞内の生化学的ネットワークが解明されれば、当て推量は不要になる。未来の医師たちは、細胞の詳しい配線図と、細胞内相互作用の強さに関する情報をもとに診断を下し、患者が薬を飲む前から、患者の細胞がその薬に対してどう反応するかを知ることができるようになるだろう。生命のマップのおかげで(生命のマップが手に入るということは、遺伝子が集団として機能する様子が詳しくわかるということだ)、いつの日か、躁鬱病やガンのような病気を、症状が出るより早く診断できるようになるだろう。その知識があれば、健康な細胞には影響を与えることなく、正常に機能しない細胞だけを攻撃するような薬を開発することができるだろう。言い換えれば、本当に病気を治せるということだ。引用以上。
少し長いですが282〜283ページを引用いたします
1996年、酵母ゲノムの解読は科学界に衝撃を与えた。酵母には、六千三百もの遺伝子が含まれていたからである。予想された遺伝子数はその4分の1ほどにすぎなかったし、おおよそ機能を割り振ることができたのもそれぐらいだった。安全係数をかけて……また、人間はなんといっても進化の頂点なのだというプライドもあって……ヒトゲノムは少なくとも10万の遺伝子からなるであろうと生物学者は予想した。これぐらいあれば、ホモサピエンスという高度な生物を説明するには十分だろうというわけだ。ところが実際には、人間には予想の3分の1ほどに相当する約3万の遺伝子しかなかったのである。知的とはいえない線虫、C・エレガンスとわれわれの違いを、C・エレガンスの遺伝子の2分の1に相当する遺伝子で説明しなければならないというのだ。これはなかなか挑発的な現実だった。というのも、C・エレガンスという虫がもっている2万の遺伝子は、わずか3百ばかりのニューロンをコード化するために使われているからだ。つまり、残り1万の遺伝子で、われわれの脳に張り巡らされた神経細胞を説明しなければならないのである。
要するにわれわれ人間の複雑さは遺伝子の数とは比例しないことが明らかになったわけである。ではわれわれの複雑さはどこから出てきたのだろう?この問いへの答えがネットワークだ。ネットワークという枠組みの中では、この疑問を次のように言い換えることができる。「同数の遺伝子があるとき、遺伝子のネットワークには何通りの反応をすることができるか?」どれかひとつの遺伝子がオンになっているかオフになっているか以外は全く同じ細胞が2つあるとき、この2つの細胞は原理的に異なった行動をとる。それぞれの遺伝子が他とは関係なくオンまたはオフになると仮定すれば、N個の遺伝子を含む細胞は「2のn乗」通りの状態をとりうる。複雑さの目安として、特定の細胞がとりうる反応の数を採用すれば、線虫C・エレガンスと人の違いはとてつもなく大きい。ヒトは線虫・エレガンスに比べて、10の3,000乗倍も複雑なのだから。(※この辺、あー人間は複雑なんだと納得するしかありません)
「20世紀は物理学の世紀、21世紀は生物学の世紀」とはよく見聞きする言葉である。これが10年前ならば「21世紀は遺伝子の世紀と言いたくなったかもしれない。しかし今となっては、われわれが足を踏み入れたこの世紀を、あえて遺伝子の世紀と言いたい人はまずいないだろう。21世紀は複雑さの世紀となるに違いない。そして、ネットワーク思考が引き金となって革命が起こる分野があるとすれば、それは生物学だと私は考える。引用以上。
第14章 ネットワーク経済
287〜288ページ
ごく最近まで経済的に成功しようとするなら大量生産こそが王道であり、そのためにはツリー・モデルが最適だった。しかし今日ではアイディアと情報に価値が置かれるようになっている。今日では夢見たものは何でも作れる。真に価値ある問題は、何を作るかということだ。
情報の爆発的上増加と市場の急速な変化に直面した企業は、かつてないほど柔軟性を求められ、企業モデルをまるごと作り直そうとしている。これいう企業モデルの作り直しとは、一部の社員の仕事をうわべだけ変更することではない。「情報経済」と名付けられた脱工業化の時代の新しいビジネス環境に対応できるよう、モデルを根底から考え直さなければならないのだ。作り直しのなかで一番わかりやすい部分は、木からクモの巣、すなわちツリー組織からネットワーク組織への移行だろう。物理的資産から情報資産へと価値がシフトするにつれ、行うべきことも、垂直方向に組織を一体化することからバーチャルな組織の一体化へと変化した。ビジネスの視野も国内からグローバルに広がり、商品の寿命は数ヶ月から数時間へと短くなり、ビジネス戦略はトップダウンからボトムアップに変化し、労働条件も従来の雇用形態から自由契約に変わっている。
新製品を売り出そうとすれば、社の内外を問わず新しい連携を組む必要が生じ、そのための新しいトポロジーが求められている。その過程で、すでに中間管理者層がお払い箱になっている。しかし一方では。これまで副次的な役割しか与えられなかった従業員が、製品に対して大きな責任を負うようになってきた。また、組織の内外から人材を集めたプロジェクト・チームやアウトソーシングが盛んに行われている。急速に変化する市場で生き残ろうとする企業は静的で最適化の進んだツリー構造から、動的で進化するネットワーク構造へと組織を変革し、より柔軟な指令系統を作ろうとしているのだ。この流れに逆らえば、すぐさま底辺に滑り落ちてしまうだろう。
企業内ネットワークの作り替えは経済をネットワーク的にみることから引き出される結論の1つに過ぎない。それ以外にも、企業は単独では機能しないという認識が広がり、社会との協力関係を作ったり、他の組織ですでに実証済みの方法を取り入れたりということが行われるようになっている。高いレベルで他社と連携することは非常に重要だが、それを行うのはCEOや重役会議のメンバーであることが多い。…後略、引用以上。
(※WorldWideWeb…これからどのように変化していくのか、堅牢かつ柔軟で脆弱性も持つとなれば人間の体のように複雑であることだけはわかりました…あはは)
引用が適切なのでこの本の主旨は理解できたような気もしますが、ハンガリー、ルーマニア、米国の三重国籍という理論物理学者に興味を覚え、葛飾図書館に予約しました。今回もまたいちまるさんの驚異的な理解の速さと咀嚼力に脱帽です。
実は私自身が闘病中でして(ナニ、亭主の夏風邪をうつされただけですけど)、体力が無いので後日また改めて。
でも「人間関係の距離が一気に縮まるめんどくささに恐れをなして」の箇所はとてもよく分かりますよ。のどが痛い、頭痛がする、微熱がある、吐き気がする・・・という症状に気を使って下さる方が、何か私にできることは?と電話を下さると、その善意は分かっていても、つい、ディオゲネスのように「私に電話しないでくださらんか」と言いたくなるわ。