スケッチ・ブック: W・アーヴィング著:吉田甲子太郎訳:新潮文庫1957年5月刊…もとの本からいくつかの作品を抜粋した本)…頭ん中を空っぽにするため(実際になったら怖いですけど😅)にプールで思いっきり泳いで…昨日昼からこの本をパラパラめくりだした。行ったことがないイギリスのちょっと昔の風景が思い浮かんできて…見たことも無い聞いたこともない記述が懐かしいのはなぜだろう。古い寺院の打ち捨てられた胸像が苔むして自然の一部に還ったような、、懐かしさ感じました。もうすぐ忘れてしまいそうな古い風景(スケッチ・ブックの中の作品:ウェストミンスター寺院)…こんな気持ちになるのはきっと僕自身の代の先が見えているからだと思いました。何年たっても朽ちない建築材料、あるときは豪華絢爛で、低温のLED照明、昼間かと見紛うような明るい室内、古いものがいたたまれないようなそっけなさ、、その一方で懐かしさを求めて時間をたっぷり吸い込んだ建造物やら人間の開墾や開拓を施した自然の風景に安らぎを覚える現代人、いつまでそんな現代人でいられるのかな、、「懐かしさ」そのものがこれから変わっていくのだと感じています、僕だけかも。都会のビル群によって画される棒グラフのようなスカイラインに懐かしさを覚えるようにならないと誰がいえよう、、遠くの富士山より近くのタワーマンション…なんてね、変な感想を持ってしまいました、ちょっとシュール、ちょっとペシミスティック、僕なんかは繋がれている紐が空中に放たれ浮かれた気分と臍の緒でしっかり地上につながっていたい気分と両方あって何とかバランスをとっていると思っています、…なんのこっちゃ、昔を思い出す感覚が危うい。
印象に残った作品:「ジョン・ブル」…から引用いたします。イギリス人の成り立ち?を表しているようでちょっと笑えましたので…。
173〜174ページ
イギリス国民が得意とする滑稽のうちで、彼らがもっとも長じているのは、ものごとを漫画化したり、道化た名称やあだ名をつけたりすることである。こういうふうにして彼らが名つけたものは単に個人だけでなく、国民にも及んだ。そして、どこまでもふざけるのが好きなので、自分自身さえも容赦しなかった。ふつうの人が考えれば、ある国民が、自分たちに人間の名をつけるならば、なにか威厳があり、雄々しく、壮大なものを想像するのが当たりまえだろう。ところがイギリス人の気性は風変りで、彼らが愛するのは、無愛想で、滑稽で、しかも親しみのあるものなのだ。そういう特徴があらわれたために、彼らは自分たちの国民的な奇矯な性質を具象するものとして、でっぷり肥った逞しい老人を選び、それに三角帽をかぶせ、赤いチョッキを着せ、なめし革のズボンをはかせ、頑丈な樫の棍棒をもたせたのである。こうして、彼らは、自分のもっとも内密な欠点を面白おかしくさらけだすことに奇妙な喜びを感じた。そして、彼らの描いた絵はじつにうまくできているから、実在の人物でだれが大衆にとってよく記憶されているといっても、あの変人、ジョン・ブルにはとうてい敵わないであろう。…中略…
一般のイギリス人たちは、自分が考えたジョン・ブルの理想的なすがたにふしぎなほど夢中になってしまったらしく、片時もはなれずにはっきりと自分の目の前にある戯画にふさわしいように行動しようとつとめているのである。…中略…
180〜181ページ
彼の邸はいくたの歳月をへたために灰色になった古い城のような荘園邸で、風雨にさらされたとはいえ、たいそう荘厳な外観を呈している。この邸は整然とした計画によって建てられたのではなく、ただ部分部分が途方もなく大きく積みかさなっているだけで、各部分の趣味や、建てられた時代は種々雑多である。中央部はあきらかにサクソン建築のあとをとどめ、大きな石やイギリスが樫の古い材木を使って、これ以上堅牢にはできないというほど頑丈につくってある。こういう様式の遺跡の例に洩れず、この邸にもうす暗い廊下や、こみ入った迷路や、陰気な部屋がたくさんあり、現代になってから部分的には明るくされたが、いまだに暗闇の中で手探りしなければならない場所が数々ある。ときに応じて本来の建物に増築がほどこされ、大改造もおこわれた。戦争や叛乱のあいだには塔や胸壁が築かれ、平和なときには翼が建てられた。離れ屋や、番小屋や、台所が、さまざまな世代の気まぐれや便宜にしたがって造られた。そして、ついにこの邸ほど広大で、まとまりのない建物はほかには想像することもできないようになってしまったのである。一そで全体が家族の礼拝堂になっている。引用以上。
(こんな屋敷の住人は時間の経過が目に見えるので…多分ずいぶんと居心地が良かったに違いないと思いました。この本をパラパラめくった僕も時代を逆行したような、旅行をした気分になりました、あ、文章は翻訳文でもさらさらと流れるような原文を類推させる書き方で、肩こりなしに読ませます、というか。つい先へ、先へと読み進めてしまいます、さすが評判通り)
研究社英米文学少叢書76 、岩崎民平註釈1953年初版のTHE SKETCH BOOK の46ページRulal life in England 書き出しの英文覗いてみました…
The stranger who would from a correct opinion of the English character must not confine his observations to the metropolis. He must go forth into the country ; he must sojourn in villages and hamlets; he must visit castles, villas, farm -houses, cottages; he must wonder through parks and gardens, along hedges and green lanes ; he must loiter about country churches; attend wakes and fairs; and other rural festivals; and cope with the people in all their conditions, and all their habits and humours.
ちょっと覗いてみただけ…ちょっと覗いてみるのは僕の癖です…あはは🤣
英国文学に「ゴシック小説」というジャンルがありまして、「ゴシック小説定番のモチーフは、怪奇現象、宿命、古城・古い館、廃墟、幽霊などであり、それらは現代のゴシック小説でも継承されている」とウィキにありますが、この種のお話にはそれなりの環境、特に住居環境がないと着想が浮かびませんよね。いや、団地やゴミ屋敷を舞台にした怪奇小説も面白いとは思うけど。