イモヅルシキホンノキ 0102
格差はつくられた:ポール・クルーグマン著・三上義一訳:早川書房2008年6月刊
(バラック・オバマ大統領が誕生する1年ほど前に脱稿、と訳者あとがきにある、252ページ。僕はこの本を図書館の除籍本の中からもらってきた。この本を読みながらもちろん出版後から現在までの日本の社会のことアメリカ社会の事僕程度のものでもいろいろ考えるところがあります。アメリカの良いところだけ真似して…悪いシステムは遠慮する。アメリカの医療保険会社が日本におけるシェアをそれほど伸ばせないのは日本の社会そのものだろう。守ったのは日本の社会保険。こんな言い方をしても議論が広がる恐れがないのは…ひとえにこのコーナーが見られていないから…あはは。
僕が若い頃日本経済が強いのは…経済の二重構造だと言われていた。日本の中小企業は大企業の下請けを担っていて…そこに働く人間が日本の経済を支えていたという誇り。今それを担っているのは非正規雇用…だと思う。今慌ててそこんところ法整備中。
そこのところ構造的に何が違っているのか。労働者同士の組織力だと思う。細分化されすぎてまとまるのにえらい力がかかる。日本人の適応力を信じて(誰が?)流動性を高めたのはいいけど…こんなんなっちゃった。中間層の再構築にどのぐらいかかるんだろう。そもそもみんながそんな気になるんだろうか? 僕なんかが考えられる事はせいぜい…難しいことは抜きにして…セーフティーネットを編み棒で一目一目編んで行くその作業から明日が見えてこないかしら…なんてことです、ま、また少し勉強する気になりました。この本を読んで…アメリカがどうなっていくのか…注目したいと思います。日本の事だけ見ていると…日本のことさえわからない。そう思いました。リーマンショック前のオバマ旋風直前の雰囲気は味わえました。今にして思えば…オバマさんが、メディケア/メディケイドを徹底的に推し進められなかった(と僕は思う)のは、僕らでは思いつかない業界からの圧力…だったと勘ぐっています。金があればシンクタンクに思う存分金を注ぎ込める、戦略も立とうってもんですよね、そんな記述もこの本の中に見つけました…以下読みながら拾っていたところを引用していきます)
30ページ
移民が人口に占める割合は、1910年14.7%でピークに達し、その大多数が都市部、ことに大都市に集中していた。同年、ニューヨークの人口の41%は外国生まれだった。そしてこれらの人々は、社会の中核をなしていたアメリカ人にしてみれば、まさに外国人であった。アイルランド移民は、20世紀に入っても外国人だとみなされていたが、反面、アメリカの人種のるつぼの一端をなす古来からの構成員だとみられていた。それに対し19世紀末、20世紀初頭の移民を構成していたイタリア人、ポーランド人、ユダヤ人、そしてその他はアイルランド人と同じようには見られていなかった。これらの移民は、現在メキシコからの移民に対する最も極端な反応に似たものに直面していた。彼らは怖い存在だとして扱われ、そして本当のアメリカ人にはなれないとみられていたのである。
31ページ
本書のテーマの1つは、人種的反目がアメリカ政府に与えている影響についてであるが、それはアメリカ政治に深く浸透し、悪影響を及ぼし、往々にして保守派に有利に働いてきた。
(ニューディール政策の一端を示す面白いデータが載っている…)
39ページ
富裕層の富の急激な減退は、だいたいの場合ひとつのことで説明できる。つまり、税金である。1920年代、富裕層にとって税金は重大なことではなかった。最高所得税率はたったの24%、また最も広大な不動産に対する相続税もたった20%と、金持ちの名家は資産を守るのにそれほど苦労しなかった。とはいえ、ニューディール政策が開始されると、富裕層は20年代よりも高いどころか、今日の水準と比較しても高い税金を払う羽目になったのである。最高所得税率(現在たった35%)はルーズベルト時代63%に上り、そして彼の第二期においては79%にまで上昇している。1950年代の半ばになると、アメリカは冷戦争に直面しその戦費が必要となり、最高所得税率は91%にまで跳ね上がっている。それに加え法人税も上がっている。企業収益に対する連邦税は、1929年には平均14%だったのが、55年には45%以上にまで上昇した。
…中略40ページ…
つまり金持ちはどうなったかというと基本的にはニューディール政策が、その資産の多く、たぶんそのほとんどを税金で持っていってしまったのである。ルーズベルト大統領が、彼の階層の人々から裏切り者だと見られていたのも不思議ではない。
43ページ
戦時下の人権統制…
平時において、アメリカのような市場経済の国は賃金体系に何らかの影響与えることはできるとしても、それを直接決定することはできない。とは言え、1940年代のおよそ4年間、戦時下の特殊事情によりアメリカ経済の一端は、多かれ少なかれ政府の指導下にあった。中略…その政策の1つが全米戦争労働委員会(NWLB)の設立である。同委員会は第一次大戦後に一旦解散したが、ルーズベルト大統領はそれを真珠湾攻撃の1ヶ月以内に復活させ、以前よりも強い権限を与えた。当時、戦争のためインフレ圧力が増してたため、政府は多くの主要商品に対し価格統制を実施した。これらの調整は戦争特需による労働力不足が賃金の大幅上昇を招いた場合実施できないため、多くの主要国家産業の賃金は連邦政府の統制下に置かれることとなった。それらの賃金の上昇は、すべて同委員会によって承認されなければならず、政府は労働争議の仲裁をするだけでなく、実際民間セクターの賃金も左右するに至った。
44ページ 驚くなかれ、同委員会はルーズベルト政権の政策に従い、高い賃金ではなく低賃金労働者の賃金を上げる傾向が強かった。平均賃金を上げるべきだとするルーズベルト大統領の指示により、雇用主は事前の許可なしに1時間あたり40セント(今日の1時間あたり約5ドルに相当する)に賃金を上げることが許された。
57〜58ページ…中略…
アメリカでは白人プロテスタントが支配的な人種であったが、ニューディールによってその支配は崩れつつあった。ニューディールの基礎をつくっていたのはカトリックの組合員が多く、またユダヤ系のインテリ層も大きな役割を演じていた。そのような変化に対してアメリカ人の多くは懐疑的であった。現在、その意識を再現する事は容易ではないが、1960年の選挙に及んでもケネディに反対票を投じたアメリカ人の多くは、単に彼がカトリックであったからそうしたのである。
いずれにしろ、要するに48年から70年代のある時点まで、民主党も共和党も「大圧縮」時代に起こった変化を受け入れていたといえる。ニューディールが、超党派のコンセンサスをかなり築いたといえるだろう。最高所得者の富を制限した重い累進課税に対し、富裕層が政治的にあまりに弱すぎて抵抗できなかった。社会保障制度と失業保険、そしてメディケアはアメリカの制度として定着し、強力な労働組合はアメリカ政治の1部として受け入れられていた。
このバランスは1970年代に崩れるのだが、それを破壊する勢力は60年代に現れて始めていた。60年代とは、経済の全てがうまくいった時代であったが、アメリカの民主主義にとってはすべてがうまくいかなかったように見えた時代でもあったのだ。
第6章 アメリカの保守派ムーブメント…
85 〜86ページ
1940年末になると、フリードマンと彼の同僚であるジョージ・スティグラーは、すでに政府の家賃統制を厳しく批判していた(正当な理由はあったといえる)。50年代になると、それは政府の介入や規制一般に広く受け入れられるようになる。60年代初頭になると、フリードマンは完全に自由市場経済を訴えるようになり、大恐慌さえ市場の失敗からではなく、政府の失策によって起こったものだと主張するようになる。彼の議論はあてにならないところがあり、知的に不正直であったと言われても仕方がないものだと私は思う。しかし、彼ほど偉大なエコノミストが知的な術策に手を染めるとは、それ自体、いかに自由市場主義が魅力的か示していると言える。自由市場主義エコノミストたちは、ニューディールだけでなく、進歩の時代(the Progressive Era)の改革まで否定するようになり、政府が食料や医薬品の安全を取り締まることさえ不当であると指摘した。フリードマン自身、ゴールドウォーターの選挙運動と関わるようになる。
第7章 大格差社会
93ページ…中略…
リッチな人々は単なる金持ちを突き放し、スーパーリッチは単にリッチな人々を突き放していたのである。上位10%の下半分に属する人々、年収で言うなら10万ドルから15万ドルの人々は、それよりも年収が低い人々よりも稼いでいたとはいえ、それほどすごく稼いでいたわけではなかった。実際、73年以降、パーセンテージで見るなら戦後の急成長期ほど所得は伸びていないのである。70年代以降、最高位1%しか、第二次大戦以降の世代と比べて所得が伸びていなかった。そしてその上に行くと、その伸びは目をみはるほどだった。上位0.10%の人々の所得は5倍に増え、上位0.01%のアメリカ人は、73年に比べて7倍も金持ちになっているのである。
第8章格差拡大の政治力学…
114ページ…中略…
拡大しつつある経済格差こそが「保守派ムーブメント」の台頭の根本的な原因であると言う理解だ。第1章で私が説明したように、私はそのような観点から本書を書き始めた。その観点とは、金で影響力を買う事は可能であり、最も裕福だったアメリカのほんの数%の人々はさらに裕福になり、政党を買収できるほどの富を蓄えたということだ。この観点からすると、「保守派ムーブメント」の台頭は拡大する格差の副産物である。
(保守派ムーブメント…ま、この頃の急進派共和党勢力のことです、ちなみに著者は2008年度のノーベル経済学賞受賞者で民主党支持者です、以下引用は略します)
なんか面白くなってきました…期待しております思う存分よろしくお願いいたします🥺
クルーグマン、この人も左派ですね。そしてユダヤ人。フリードマンは同じユダヤ人でも右派で小さな政府の提唱者、シカゴ時代に日本人の宇沢弘文氏と犬猿の仲だったそう。ということは、宇沢氏とクルーグマンは仲良しだったのでしょう。
経済の二重構造はドイツやフランスにもバッチリございますよ。大手ばかりでなく中小企業も昨今はさかんにライアーバイター、つまり「貸出労働者」を使います。不況時に首切りができないので(企業は最後の血の一滴まで出さないと解雇できない)、そのための安全弁ですね。うちは使っていません。あれは体のいい奴隷制だと亭主は言っております。日本の報道者や経済評論家には、欧州の隅々まで廻って国民の実情を漏れなく把握してほしいものです。
ドイツはEUのためにいっぱいお金を提供して、実態は支払い不能のギリシアやスペイン、イタリアに金を貸しており、「多分返ってこないよね」と訊いたら、それで金利をゼロにし(ここしばらくはマイナス金利、つまり貯蓄すると金が減る〉加えてインフレにすると、1兆や2兆の借金がなんのもんじゃい、価値ゼロや、となる。
奥の手(といっても、おおっぴらに出しているが)は紙幣印刷。これまた天下にお金がいっぱい出回るから、政府の大判振舞もノープロブレムでございます。
移民問題、はい、土曜日の新聞に「移民の波にバイデンは無力」と題した記事があって、メキシコ国境に近いテキサスの町の移民キャンプに佇むハイチ人の写真が添えられていました。後で読もうと取ってあって、こういう場合普段はだいたい読まずにそのうち捨てるのですが、このブログを拝見しまして「あ、読まなくちゃ」と真面目に思いました。近日中に報告いたします。ブログに「精励刻苦」を使嗾される(ゴメン、言葉が悪い)ことが多々あります。感謝。
あとは、え~っと、富裕層の税の話。これ、戦後の英国などでは凄かったようですよ。日本人の間ではほとんど知られてないと思いますが、英国の貴族にミットフォード家というのがありまして、王室の遠縁でもあるらしい。この家族の唯一の男児は戦死して、育った6人姉妹がもう綺羅星のごとく、一人は作家、一人は共産主義者、一人はヒットラー崇拝者、一人は英国随一のファシストの妻、一人は公爵家に嫁いで広大な荘園を経営。平凡な主婦になった娘も一人だけいますが。
でね、その伝記で知ったところによると、アメリカに移民した共産主義者とヒットラー崇拝者(ドイツ敗戦でショックを受けて自殺を図り不具になって早世)以外は大金持ちだったので、資産に200%とかいう税が課され最後はみんな文字通りスカンピンになるのです。それが全員見事に復活を遂げ、押しも押されもせぬセレブに(2,3年前に末娘が100歳を越えて亡くなりましたが)。欧州の貴族というのはダテに貴族商売をはってきたわけじゃない、この胆力・気力があっての貴族なんだなあと感心しました。写真はそのミットフォード・シスターズです。男の子がいるから戦前ですね。