4月11日(金)
ゆず屋から買ったしっかりした肘掛けつきの椅子が3つ台所に納まっている。もともとは足元が安定しないご高齢の方向きに友人と相談して、用意したものだ。
これがなかなか具合が良い。座り心地が良いのだ。久しぶりにぼーっと、午後のひとときをくつろいでいたらあることを思い出した。
外資系のゲーム会社(といっても、もともとは日本の会社で社長が外資系の会社に会社丸ごと身売りしてしまったのだ。総務部に席を置いていた時、中途採用者が面接の時に言った言葉が忘れられない。
ご自分で輸出入の会社を経営していたその方…面接で、年俸が決まると…すいませんが、僕は肘付きの椅子しか使ったことないのでそれを用意していただけますでしょうか…とつらーっと言ったのだ。
僕の上司でもある人事担当者…ちょっと言葉に詰まったようでしたが、中古の膝肘付きの椅子があったのでそれをあてがってました。驚いたのほうは僕の方。へー表向きは日本の会社でも外資系となるとインタビューの場面で、こういう展開になるのか…と感動をもって納得。
その後、友人達と、石材製品の輸入販売の会社を立ち上げたもののある事情で、僕が辞めざるを得なくなる。お金もなかったので、その後30年以上やることになる職人の道へ僕は入りました。
仕事はとりあえず苦労しながらも、何とか順調に行くようになり、ちょっと余裕が出てきた頃晴海で行われた家具デザイナー養成の10回ばかりの講座に出てみました。職人の受講生が珍しかったらしく講師が僕に声をかけてきて…あなた、椅子のデザイナーになりなさい…その人に合った椅子🪑を作るのです、ミリ単位で。
僕は仕事がありましたし、順調ではなかったにしろ収入の道は確保されていたので、記憶に留めるだけで結局着手せず忘れていました。今それを思い出したのです。
人間は一生のうちにどのぐらいの期間椅子に座るのだろう。乳母車から車椅子まで椅子と考えると、かなり長い時間、日本人でも椅子に座ることになる。
黒潮が流れる海辺の温暖なところで、風通しのいい木陰のロッキングチェアでのんびりしているところを想像してみる…、丘の上でも、山の中でも、居心地が良ければ、どこでもいい。僕は大体において下町の路地の奥でしか暮らしたことがないから。
座り心地の良い椅子に身を預ければ…老人も夢を見る。
日本は椅子文化ではないので、椅子が軽んじられているという気がします。こちらドイツの特に田舎では、数世代にわたって使われた木の椅子が現役で、彫り物などしてあって、趣きがありインテリアグッズとしても活躍。
いろんな催しで折りたたみ式の簡易椅子が並んでいると、ちょっと残念な気がします。
自分の田舎の家にはフローリングの部屋にテーブルと椅子(日本の有名な家具メーカーのもの)6脚とを並べてあり、その手前の和室には座卓を置いて隅っこに座布団を積んでいます。来客があると「どちらでも、どうぞ」と言いますが、老若男女全員が椅子に座る方を選びます。膝が痛いから、とか座ると立てないとかの理由で。
そのたびに、昔の人はどうだったんだろう、と考えてしまいます。お爺ちゃんもお婆ちゃんも、死ぬまで椅子は使ってなかったんだけど。