10月20日(金)
あー、あんた惚れたね、一目ぼれってやつさぁ、、街娼の手引き(いろいろある①がっつくんじゃない②衛生サックを必ずつける③前払い、、まだまだいっぱいある)をしてくれた姉さん格のマリーのいつもの吐き捨てるような言い方。
千枝は確かめるようにマリーの目を見た、その目はピクリともせず千枝を見据えていた。
逡巡している千枝を見てマリーは言った。
飛んでいって捕まえてこい!すがりついて逃すんじゃないよ…
(幸せをつかむんだよ、、あたしは、あたしは、、それができなかった、、マリーは、なんでもお見通しのような高い秋空をまぶしそうに見上げ、しばらくそうしていた)
千枝は、早足で男のあとを追った、駆けた、、向こうから来る男の肩口に頭がぶつかった、、
「あ、あっ、すいません、すいません、、」
見上げるとそこに祥太郎がいた、、
「大丈夫ですか?」
千枝は空からの声かと思った。初めて聞く空から降ってきた言葉、、
「ハァ、ハァ、ハァ、、」
千絵は祥太郎をはっきりと見た。
千枝とぶつかったのは、、
祥太郎は、何か知らない忘れ物をしたような胸騒ぎがして、今来た道を引き返そうと振り返ったその刹那だったのだ、、
祥太郎と千枝のまるで安っぽい三文小説に出てくるような唐突の出会いだった。
千枝の呼吸が落ち着くのを待って祥太郎は、静かに言葉を継いだ。
「少し話をしませんか」
「…」
「いい天気だ…」
祥太郎と千枝もまた、マリーと同じ晴れ渡った高い秋の空の下にいた。
「少し話をしましょう」
(鳥が逃げ込んできたのだ。この鳥のために生きてみるのも面白いかな)
祥太郎が笑顔を向けると丸顔のくりくりよく動く目が何も見逃さない監視カメラのように祥太郎を丸ごと捉えていた。
(今日は午後から兄の所へ行きます…リハビリセンターの方でもぼくに話があるということなので、で良いタイミングでした。兄が欲しがっていたサクマドロップは今年の1月で製造中止、代わりに龍角散のどあめを持っていきます)
先日浅田次郎の「霧笛荘夜話」を床の中で読んだので、そこに登場する二人の水商売の女性を思い出してしまいました。変に影響するといけないので(そんな心配はないとは思いますが)そのストーリーを紹介するのは控えます。
水商売と言えば、私は興味半分、いや興味全部で、赤坂のキャバレーに行ったことがあるんですよ。当時の知り合いがときどき行っているというのであれこれ質問したら、「だったら今度一緒に来ればいい」と言うので付いて行きました。確かミカドとかいう名前だった。デヴィさんが以前働いていたというコパカバーナではなくて。
気さくな同年輩の女性がそばに座ったので、衣装のこととか(自前なのか貸してもらえるのか)勤務時間とかいろいろ尋ねましたが、厭な顔をせずに答えてくれました。後日聞いたところでは、店一番の売れっ子になったそうです(性格の良さから。やっぱりね)。チドリという名前でした。今頃どこでどうしているかしら。
サクマドロップ、缶入りでしたね。当時(6~10歳の頃)はお菓子の選り好みなんかできる時代じゃなかったけど、あの酸っぱさはちょっと苦手でした。つい最近お菓子屋さんでドロップを見て懐かしく、缶だけ欲しいと思いました。