2020年3月28日に自由の庭で葛飾文芸クラブの第1回の顔合わせの会以来の会員である内田正治(本名A・M)さんの初めての商業出版である『タクシードライバーぐるぐる日記』がブレイクしています。内田さんはKBCの月2回の会合(読書会と例会)に現在もコンスタントに出席されていますが、初期の内田さんの印象は毎日新聞のコラム欄に上質のエッセイを投稿する短文の書き手としてでした。このホームページのフォーラム欄の初期のページを繰っていただくと「せーさん」「父のプライド」「初めての口腔外科」などの印象的な作品が掲載されています。
次にメンバーを驚かせたのは自費出版された『ボクの昭和史』を披露されて、メンバーで回覧させてもらったときです。幼少期、中学生時代くらいまでの回想記で、丹念に当時の資料を整理して、時にかつての友人・知人からも取材してまとめた個人史ですが、同時代の空気を吸ったものには生き生きと当時の風物を蘇らせてくれる労作でした。これについては、2020年9月12日の読書会の報告や、たとえばライントークの2020.12.05の項に木下秀子さんのメールによる感想文とA・Mさんとのトークが残っています。これはその後の補足と併せて是非完本を刊行していただきたいと思っています。
さて『タクシードライバーぐるぐる日記』については、このフォーラム欄にもろれさんが10月11日に感想を投稿されていますし、大村さんの尽力で「タクシードライバーぐるぐる日記🚕😎 (憚りながら)内田正治 一人語り」の楽しい連載(10月25日~)もありました。今更ですが、私なりの感想を書いておきたいと思います。
日記の体裁ですが、章分けされてそれぞれのテーマがわかりやすく、メリハリの利いた短文の名手らしい読ませどころ満載の個人史を超えた平成風俗史となっています。ろれさんのご指摘のように、どんな困難な場面でも暖かい気配りが底にあるので面倒な事案をとりあげていても読後感がさわやかです。
またほとんど全ページにわたって、痒い所に手が届くような脚注がつけられていて、どの場面も立体的に奥行きのある記述となっています。
たとえば「小さな常連客」の項で、「世間知らずのお坊ちゃん」(p113)一見おせっかいな対応ですが、人生の大切な知恵を年少者に伝えることの実例として、単なる注を超えていると思いました。
また盲目の老夫婦のエピソードを暖かく披露した箇所では、さりげなくご自身の奥様との関係を息子さんが気遣って年に一度の旅行に連れ出してくれるというくだりはご自身の家族史としてもよく書き込まれていると思いました。その他にも違反切符やソープランド、オカマ小路、エントツなどどれも興味津々の項目でした。とりわけ面白かったのは酔客(睡客)の起こし方で、携帯の着信音を聞かせるとどんな客でも一発で起こせるというベテランの知恵。
個人史を超えた平成風俗史、、かあ。不思議なものでこのようにフレームが与えられると…すでに内田さんの中で令和のストーリー、ヒストリーが始まっているのだろうなと想像できます。
ところで、先日来、内田さんに下町名物のさらなる追加の「おまけ」をお願いしていたところ…「ぐるぐる」がご縁で、あるエピソードをいただけましたので近々公開させていただきます。それにしても我がクラブの会長さすがに布石がうまいなぁ、恐れ入りました。