千夕報　📎　011

6月29日(日)

歳をとったなぁと思う。目覚めて起きてぼーっとする。椅子に腰掛けて前の壁を見る。時計があるから、秒針を追う。ガラス戸越しの外の明るさを確認する。台所の肘掛け椅子に座って狭っ苦しいあたりを見回す。心臓が落ち着いてきて…改めて歳取ったなぁと思う。

庭の花や木の様子を見に行く必要はない。庭がないからだ。玄関開けて路地に立てば、今日の天気はわかりそうなものでも、スマホで今日の天気予報を見たりしてしまう。

ふと、、丸い島の物語…小説の題名を思いつく。ぱっとしない。

でも、僕らは誰だって物語を生きている。数え切れない物語。これはまぁそうだと思う。本人にしか見られない人間世界。

暇なので…いま在ることについてありがとうと言ってみる。ありがたいと思えてくるから不思議だ。

さて、今日は何をやっつけようかと頭の中が働きだしたところで、空腹なのに、気がついて、やっと1日がのっそりと動き出す。

何を食うか、、味噌汁の実を考える、、この辺で立ち上がり、寝床を押し入れにしまい込む。一汁一菜、一日の始まりだ。コップでとりあえず水道水を飲むことを思い出しいつものところに着地する。

歳に不足はないけれどたっぷりお釣りが来るまで生きてやる、と体に空気を送り込む、干からびそうな体に水と燃料も注ぎ込む、、さて、始動、、なんちゃって。

この頃ゆっくりと追いかけ始めたのが、やはり終末期の暮らし方。いつやってくるかもしれないさよならの場面はいつも思い出す。思い出す…これはとても変な言い方だ。こういう言い方になってしまうのにはわけがある。

終末期をどのように迎えるかに関する本を読みながら、次の事件を知ってググってみた。

ナンシー・クルーザン事件/尊厳死やリビングウィルといった概念が注目されるようになった事件、、

ミズーリ州で1983年に発生した、交通事故で植物状態になったナンシー・クルーザンさんの延命治療を巡る裁判です。裁判では、患者本人の意思が不明確な場合の延命治療中止の可否が争われ、最終的に連邦最高裁で、本人の意思を示す「明確かつ納得できる証拠」があれば、延命治療を中止できると判断されました。この事件は、患者の自己決定権と延命治療の是非を問う重要な判例となりました。

… 20世紀も末期に近づいて、やっとここまでこぎつけてるんだなあーという印象です。

兄の入院に関しても、入院手続きの立ち会いを僕がやったとき、延命治療の程度、麻酔を使うことの承認、リハビリの進め方、などそれぞれの担当者が入れ替わり説明にやってきて合意文書にサイン、、というかしっかりウラを取られました。

ところで話変わって…

びすこさんが紹介してくださった夏目漱石の思い出す事など、、を青空文庫でパラパラ見て、、その14の項の病で苦しんでる夏目漱石の枕元での医者同士の会話が面白かった。こう書いたところで、泉下の漱石は、今更怒らないだろう。かいつまんで話すと、次の通り、、

おそらく多少病人の漱石の手前を考えて、というか、医者の慣習として病状について2人の医者がドイツ語で枕元でやりとりする場面の漱石の描写…

医者同士(漱石は)もうだめだろうという内容を簡単にやりとりする。(2人の医者にとっては、もしかしたら日常茶飯事の場面) 漱石は瀕死の状態でも、内容を聞いている。本人にとっては甚だ面白くない。そりゃそうだろう。本人を目の前にしてまるでお天気の話でもしているように淡々と意見交換をしている場面なんですから。

基本的には、平和的日常の場面では、あかの他人の死など、このようなものだと思う。このようなものとは、どのようなものか…たとえ身近な人の死でもある意味他人事(実は自分の死も意外と他人事)だから、冷静に状況を判断できる(死の瞬間に立ち会った場合はもちろん人間ですから、いろいろな感情が交錯する事はあっても。また、身近な人の不慮の事故の場合には全く別の展開になりますね。気持ちの整理は一生つかないかもしれない)。

他人の死には、立ち会えるけれども、自分自身の死の瞬間の経験など持ち合わせがないのだから今までの話は当たり前と言えば、当たり前。

そして、習慣になっている締めの漱石の俳句

冷やかな脈を護りぬ夜明方

で生き延びる。

(さて、今日は王子の北トピアというところで開かれるかつしかギタークラブの初コンサートにちょっと顔を出してくる。兄のところにもその後に顔を出して足の爪でも切ってあげようかなと思っている)