日本が壊れる前に:中村淳彦/藤井達夫:亜紀書房2020年12月刊
「貧困」の現場から見えるネオリベの構造、、と副題にある。立石図書館のオススメ本の棚に置いてあったものです。ネオリベ…とは新自由主義。ここ30年間のネオリベラリズムを見通す格好の本だと思いました、オススメです。例によって引用の箇所が多いですが…そこだけ読んでも誤解の少ないところを厳選したつもりです、200ページ位の本ですのでぜひ直接お読み下さいませ。
48〜49ページ
僕らの社会には余裕がない。病院も個人事業もギリギリでやっている。ギリギリじゃないのは内部留保のある大企業だけ。なぜコロナの検査や追跡調査が十分できないか、もちろん、それは法律上の制約があるからですが、保健所の人員が減らされたことも無視できない要因です。公のための余剰や溜めを切り捨ててきた結果といえると思います。そうした社会の脆弱性をコロナ禍は露わにしました(藤井)。…中略…僕がネオリベのおそろしさを体感したのは、12年前に文筆業を一度辞めて介護事業にかかわってから。とにかくお金がない、介護報酬が低い中で苛烈な競争に駆り立てられる。当時はブラック労働も蔓延していたので、どんどん職員もおかしくなって本当に地獄だと思った。ネオリベのせいだと気づいたのは、地獄に足を踏み入れて何年も経ってからです。ずっとどうして苦しいのかわからなかった(中村)。
50ページ
藤井:競争は社会の活力を高めたり、イノベーションを促進するためになくてはなりませんが、しかし、競争はすべきところでやるべきなのです。子供から老人まであらゆる人間の活動を市場化する必要はないし、むしろしてはいけない。大切なことは、市場のルールや物差しが適用されるべきでない安全な場所をしっかり確保することで、最低限度の健康で文化的な生活ができるようにすることです。そのためなら、無駄が少しくらいあってもいいじゃないか、という考えはネオリベとは相いれない。
54ページ
藤井:ネオリベが怖いのは、単に人を貧困にさせることだけではありません。もっと怖いのは、社会システム自体が人びとを貧困にさせ、人間の心を蝕んでいるということ。そのようにして脆くなった社会の、最も脆い部分を、コロナは突いたわけです。
60ページ
中村:行政が助けてくれればいいけど、地方自治体自体がネオリベを積極的に取り入れて、市民を貧困化させている。生活保護制度を保護費の25%を自治体が負担するので、窓際作戦が蔓延している。地域とか地域の窓口とか、担当者とかで対応が違ってくる。少しの貯金があるとか、車を所有しているとか、実家や親戚に電話するとか、何かしらネックになって追い返されちゃう。条件を満たしていても、いろいろ壁があるんですね。生活保護の捕捉率は2割程度といわれているけど、取材していても、その割合のとおりという印象ですね。
102ページ
中村:真面目に子育てしている同世代の女性って、ちょっと大丈夫だろうかと思うぐらい時代遅れ。特にこの3年間くらい、世の中がすごい速さで変わっていて、子育てに全精力を使うのはいまや危ないです。子育てが最も重要なことで、子育てを自分自身の最優先にすると言う同調圧力というか、社会があるので違和感がなかったけど、ネオリベ的社会では現実として子育てで時間を止めたお母さんを相手にしていないし、最低賃金で働かせている。だからシングルマザーは貧困まみれなわけで。お母さんだって生きていかなきゃいけないんだから、子どもがどうこうより、そんな余裕がないのもわかるけど、自分の人生をもう少し考える必要があると思うんですね。シングルマザーの悲惨な現実があるのに男性がイクメンしたがるのは不思議というか、変な現象だと思う。
135ページ
藤井:世代間論争は、世代の中にある本当の問題、大きな格差を見えなくする可能性があります。僕はむしろそちらのほうに関心がある。僕らの社会には様々な対立があります。男性と女性、外国人労働者と日本人労働者、若者と高齢者…。でもこれらの作られた対立には、社会のもっと大きな問題を見えなくする働きがある。本来なら連帯して解決に向かえばいいような似た問題を抱えている人たちを、バブル世代、団塊ジュニア世代、さとり世代と分けてしまうことによって、かえって分断させている。だから世代の違いとして語るより、それぞれの実際の働き方や年収、生活の困難さをもって論じたほうがいいと思うんです。
137ページ
地域包括ケアシステムもネオリベ政策…中村:介護におけるポエム化、いまの話でいう規律化、介護職という仕事に対するものから、現在は「地域包括ケアシステム」という政策に広がっています。「地域包括ケアシステム」は社会保障削減の切り札で、みんなが地域を新たにデザインするとか、創造するとか抽象的な言葉に踊らされているけど、社会保障費を削減するために高齢者と障がい者を地域で面倒みなさいというネオリベ的な国策です。今まで報酬をもらってやったものを無償でというニュアンスがあって、労働の無価値化なのにみんな目をキラキラさせてやっている。
どうして団塊の世代だけが恵まれるのか…
142〜143ページ
中略…中村:日本は年功序列が続いてきたので、上の世代が下を尊重できない文化がある。いま分断しているとすれば、上の世代の責任ですね。
藤井:そう。本来コミニケーションを取るべきは上の世代。でもそれができない。なぜかというと、僕らの世代にはまだ分断と言う発想がなかったから。僕らには日本人といえばこうだよね、という1億総中流のイメージがあった。コミニケーションを一生懸命取る必要も感じないし、取り方も知らない。でも、分断によって得をしているのは、明らかに政治側の人たちですよ。
中村:同じ女性でも高収入の人もいれば、貧困を抱えている人もいる。日本人自体が多くの層に分かれていて、その層が交差することがないので、お互いに見えないまま。仮に同じ利益、あるいは政治課題を共有していたとしても、互いに見えないので、それを政治につなげることができない。結果、行政や国政が得をすることになる。
藤井: 60代と30代だって、所得が少ないとか生活保護を受けられないとか、同じ問題を抱えている。本来そうした形で彼らがまとまれば、もう少し大きな声になる。でも、「世代」なるものを出してきて、分断することで、あの世代が悪い、と問題をすり替えることができますからね。政治には敵対性を作る性質がある。政治の本質とは、「友か敵かにある」とまで言った、シュミットというドイツの公法学者もいる。国民が勝手にいがみ合えば、自分たちに批判の目が向きません。だから分断させるのが、最もうまい統治方法になる。それがとくにうまいのはトランプ大統領です。人々を煽って戦わせて、自分のほうに批判を向けさせない。
…中略
145〜146ページ
中村:分断というのは政治や統治の重要なキーワードですね。
藤井:マーガレット・サッチャーの「社会など存在しない。あるのは個人と家族だけである」という有名な言葉があります。社会とは人々のつながりですよ。人間は家族だけじゃなく、必ずどこかの業界団体やサークルなど、多様な人々と結びついている。ネオリベはそのつながりを壊していく。個人化していく。労働者も集団ではなくて1人の労働者。だから1人で競争して頑張れ、と、それまで労働者を守っていた労働組合や規制を取っ払う。そしてそれまでのまとまりがどんどん細分化されていく。
中村:そうした中で対立を煽る。
藤井:対立を煽るのもネオリベの特徴の1つ。とにかくまとまらせない。同じ業界でも競い合わせる。競争原理を徹底した結果、潰れるか潰すかという戦いになる。中村さんの言う通り、対立を煽り、分断させる。この統治がうまくいっている限り、ネオリベの時代は続くかもしれませんね。
146ページ
女子大生の貧困化とパパ活の隆盛…
中村:コロナ後、取材対象としている女子大生たちは、非常に逼迫した状況になっています。これも世代間の利益の再分配に関わることなので話しておきます。
2月末ごろから学校が休みになった関係で、4月末に女子大生風俗嬢を3、4人取材した。コロナでお客さんがいなくなると、風俗の仕事は「待機」になる。コロナでまったく客がいなくなったせいで、学費を払わなきゃいけない女子大生は24時間まったく家に帰らず待機せざるをえなくなった。学校は休みなので泊まり込みで客をとるのです。
藤井:本当ですか。大学の教員のどれだけが、この事実を知っているのだろうか。…中略153ページ中村:そのデリヘルに泊まり込んでいる美少女女子大生は、医療系大学理学療法学科だった。国家資格を取るための学科だから学費が高い。文系の1.5倍はする。その資格のためにオジサンたちに体を売って、卒業したら今度はネオリベのターゲットとなる医療や福祉産業で低賃金労働する。奨学金には利子がかかる。地獄のようですね。
154ページ
中村:学校を続けるために風俗をやってる子についても、代替案がないのだから否定することはできない。でも、やっぱり風俗はきつい。きついって語ってしまうと、財力もないのに東京なんかで勉強しようと思うからそうなる、と言われちゃう。身の丈に合った夢を持ちなさい、とか。
藤井:ネオリベだとそういう話にどうしてもなってしまうんです。あなたの選択が間違っていたんでしょう、と。それはやっぱりおかしい。このような悲惨な再配分の形がまかり通っているのは、本来政治がやるべきことをやっていないから。今後、この社会は復讐にあいますよ。社会の根幹に関わるところで退廃していく。お金は社会の一部分にすごく余っている。世界全体で見ればこれほど富が増えている時代はありません。衰退途上国と揶揄される日本だってGDPは世界第3位ですよ。私たちの国には、まだまだ富はあるんですよ。ただ、その富の配分がうまく機能していない。ごく一部の人間、ごく一部の企業に集中している。このままだと、この社会は本当にまずいです。
分断をこえて、ポストコロナを生きる
政治にできること…
183〜 184ページ
中村:階層が分断しているなかで、階層違いに現実が届くのは時間がかかりますね。10年位のスパンが必要かも。学生の貧困はやっと政治家まで届いた状況ですね。
それと若い人たちは共助をやっていこうという意識が強い。その変化にオジサンたちは気づいていない。若い人たちが何を考えているのか、時代はどう変化しているのかをオジサンたちは知る必要がある。偉いという勘違いにいち早く気づき、謙虚に耳を傾ける、そこを意識することですね。
藤井:むしろオジサンたちは共助の部分をもっと若い人に見習わなければいけない。価値観のある人たちと、ちゃんと地域社会で友だちになる。いざというときに頼りにできる、金貸してと言ったら貸してくれるような、家がなくなっちゃったから1ヵ月住わせてとか言えるような、そういう関係には信頼が必要です。それはすぐにはできないので、長い年月をかけて関係を作っていかなければなりません。でもオジサンたちは、これが苦手なんですね。
一方、若い人は、もう政治に期待していない。政治が自分たちの生活を支えてくれるという意識や期待がなくて、共助でなんとかやっていこうみたいな。だから投票にも行かないし、そもそも政治について考えない。しかし、このままネオリベが続けば、これまで以上に社会が壊れていく。個人の生活防衛だけでは何ともならなくなるような気もします。そうなれば政治に関わっていく必要がどうしてもある。
198〜199ページ
(最後のページで…ネオリベで変わってしまった社会…すでにある社会という見方からこんな言い方をしてますね)
中村:心のなかでは批判しながらもネオリベを受け入れ、平成までに自分自身に培われた常識を崩して、いったいどうすることが幸せなのか、自分自身の最大公約数になるのか。もっと自由に考えて実行していく必要がありますね。
藤井:変わるところは変わらなきゃいけない。変わらないためにはやっぱり変わっていかなきゃいけないわけです。ありきたりな保守主義のモットーだけど、大事なことを変えないためには変わらなきゃいけない。そういう精神が重要な時代ですね。
国境をまたいでみんな生きるのに懸命ですね、日本は周りを海に囲まれて越しにくい国境になっている、、なんて幻想でしょうか。共用のはずの海水の養分豊富なエナジードリンクが生物を育てその上、沈まなかった山の頂上だけでできている国と思うと、なんか愉快です。他の状況の犠牲の上に成り立ったとはいえ戦後昭和時代の良い時を知っている僕らの世代、やる事は山ほどあってもどこから手をつけていいのやら…死ぬまで本を読み続けてほんの少しの試みをしておさらばしたいです。若い人たちは命がけですね。ま、それを言えば限りある命しかない僕ら人間は皆命がけなんですけどハハハ。同じ日本の船の中🚢そういえば護送船団方式なんて言葉もありましたっけ…昭和は遠くなりにけり、いつも縦横無尽なコメントありがとうございますたくさんの刺激を受けています^_^