千夕報　📎　012

「ねえ、聞いて下さる？ねえ、聞いて下さる？寂しがりやの打ち明け話・・・」

これ、太田裕美の「赤いハイヒール」の出だしですけど、ご存知ですか。私この歌が大好きでした。東京に出て来た田舎娘の孤独がとてもよく分かったから。

今はもう別に寂しがりやではないけど、時々「ねえ、聞いて下さる？」と言いたいときがあります。打ち明け話の内容もまったく他愛ないものですけど。

それで今日の話題は、鳥のことです。ええ、空飛ぶ鳥の話。

我が家の台所から仕上げ・塗装場の建物の上部が見えるのですが、そこの切妻の、ちょっとした雨なら庇で遮られる窓の桟の部分に以前から白いしみがいっぱいついているのに気がついていました。どうも鳥の糞らしくそれも数羽のものですが、鳥を見かけたことがありません。

ところが数日前に台所で何かを磨いていたMさんが、ちょっと来て、と呼ぶので見ると、庇の下に大きな鳥が1羽と小さなのが３羽いるではありませんか。大きいのはすぐ飛び立ってしまって、残った３羽のうち少し経つと１羽が消えてしまいました。

あれはブッサードかなあ、とMさん。そうねモイゼブサードかも、と私は答えたのですがそれにしては小さい。ブッサードというのは日本語で「のすり」と言います。モイゼブサードはそれより小さくて「ヨーロッパノスリ」と呼ばれ、その名の通りイベリア半島からユーラシアの東部までが生態圏ですので、日本では見かけません。

（のすりってどんな漢字を書くかと思ったら、狂＋鳥で何だか物騒な字ですね。）

亭主が帰宅してその場所を指したときには鳥はいませんでした。でも翌朝小さいのが２羽いて、うちのダンナは小鳥が大好きなのでえらく興奮している様子でした。彼も「ノスリ」または「ヨーロッパノスリ」にしては小さすぎるという。私の見た親鳥も50センチなんて大きさではなかったし。それでちょっと調べて、どうもドイツでシュタインカウツと呼ばれている小型のフクロウだろうということになりました。日本語では「コキンメフクロウ」ですって。「小さい金目の梟」という意味です。(写真を添付）

それから二人で代わる代わる望遠鏡で見ていますが、子供はやっぱりなかなか可愛い。ときどきいなくなるのはどこに行っているんだろう、工場の中には入っていかないし。雨が強いときもどこか別の所に避難するみたいです。

前述の通り、うちのダンナは鳥キチガイで（あ、それこそ狂＋鳥)屋上で鳥と遊ぶのが何よりの楽しみ、小鳥の家を何軒(?)も作ってそこにナッツやヒマワリの種などをたっぷり置いて、ナッツ団子みたいなのをあちこちに吊るして、「あ、全部食べてる」と喜んだり、「今日は食欲がないみたいだ」と心配したり。一番多い鳥はシジュウカラですが、ウソやコマドリもいます。大食なのは体の大きいカケスたち。

マリアさんは亭主が鳥に餌をやるのに反対で、真冬はまあ多少助けてやってもいいけれど、春になっても餌がもらえるとなると自分で昆虫や花の蜜を探すことをしなくなる。自力で食べていくのが鳥の本来の姿なのに、それでは怠け者で本能を忘れた鳥になる、と言います。これには私も１００％賛成ですが、Mさんが亭主に頼まれてせっせと餌を仕入れてきて、私たちがいないときは彼が小鳥オジサンになるので、鳥たちは甘えん坊の怠け者になる一方です。

私が餌やりに反対なのはもう一つわけがあって、それは餌代が馬鹿にならないことでございます。月に数万円分ピーナツやカボチャ・ヒマワリの種などを買うものですから、冗談ではなく、私一人の食費より大きな額になります。特に冬場はもう、どの鳥にもお腹いっぱい食べさせるために、大きな袋をいくつも買い込んで来る。

なぜ小鳥ごときにそんなにお金をかけるのかと私が怒ると、「でも小鳥は春になると歌を歌って恩を返してくれるじゃないか」というのですが、歌ぐらい私だって歌えるわ、と言っても冷笑するだけ。

さて「小金目梟」は、幸いなことに彼が餌を撒いてやれるところには居ないし、餌は蛙やネズミなので、フクロウ小父さんになるのはちょっと難しい。うちの工場は谷川沿いだから、ひょっとして魚も獲れるかもしれません。基本的に夜行性なので餌を探している現場を見たことがないのですけれど。

餌をやれない分、亭主はバードウォッチングには熱心で暇があると窓から望遠鏡で観察しており、老いの身に楽しみが一つ増えたことは喜ぶべきなんでしょう。

それで私、またアホな句を作りました。

・梟が軒端に勝手にマイホーム

(軒を貸して母屋を取られることはなさそうですけど)

・雛遊ぶ親の定めし縄張りに

夜行性と言えば、私たちが就寝してから窓の外を五位鷺が飛んでいくことがあります。時には真夜中をだいぶ過ぎて何だか下品な声で鳴きながら裏の森の方に向かうので、それと分かるのです。こっちの句は

・短夜や五位鷺帰り損ねたる

はい、お粗末さまでした。聞いてくださってありがとう。